私は昔からびびりだ。だから、SNSのアカウントには基本的に鍵をかけている。もちろん、SNSで知り合った人とサシで会うなんてもってのほか。鍵がしっかりとかかったアカウントで、名前も顔もちゃんと分かる友人知人と芸能人の公式アカウントのみをフォローする。それが、私のSNSとの付き合い方だった。

そんな私だが、ツイッターのアカウントの鍵を一時的に開けて、それで繋がった相手とリアルで会ったことがある。今から約4年前、大学生になったばかりの頃のことだ。

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私がスマホを買ってもらってラインを始めたのは、中学卒業の本当に直前だ。それまではメールと電話しか使ったことがなかった。「あ、泉海ちゃんライン始めたんだー?じゃあ同じ高校の新入生のグループに招待するよ!」。

同じ高校に進む地元の友人に招待される形で、そのライングループに足を踏み入れてびっくり!だって入学前だというのに、そのグループには100人を超える新入生が入っていたんだもの。聞けば皆さん、ツイッターで「春からナントカ高校に進みます!」とツイートし、同じ高校に進む子を見つけてこのグループに招待してもらっているらしい。なるほど、私がガラケーを使っている間に、同い年の子たちはそんなハイテクな手段を活用して生きていたのか…。

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そんなことがあったので、大学生になる時は「鍵外すのちょっと怖いけど、ぼっちになる方がもっと怖いし…」と思いながらツイッターのアカウントの鍵を一時的に開錠。同じ大学に進む子数名と「春からナントカ大学」のハッシュタグで繋がって自分を安心させていた。
こんなにもびびりの私が、後々「鍵外してといて良かったー!」と思う出来事が起こったのは、入学式の前の日のことだった。

大学で入りたい部活があった。入学前の春休みから公式SNSをちらちらチェックしていたのだが、いよいよ明日は入学式!という前日、その部活が式の後に「新歓ご飯会」を開くことを知った。

勿論行きたかったんだけれど、新入生一人で突撃するのはちょっと不安だった。誰か一緒に行ってくれる新入生はいないかな…。
考えた末に、ツイッターで「明日◯◯の新歓ご飯会に行く子いませんか? #春から△△(通っていた大学の名前)」とツイートした。「いやーたぶん誰も引っかからないだろうな…」とほとんど諦めながら。

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ところが、私がツイートしてすぐ、一件のリプが届いたのだ。「初めまして!私も△△大学の新入生で、◯◯のご飯会気になってました。良かったら一緒に行きましょう!」。びっくりだった。同じ大学に進むということだけしか共通点のない(しかもSNSなんていくらでも嘘つけるからぶっちゃけそれさえも怪しい)アカウントに、こんなリプをくれる子がいるとは…。

そこからあれよあれよと話が進み、そのアカウントの持ち主と「一緒にご飯会に行きましょう!」とDMで約束。次の日入学式が終わってから本人に会った。「なりすましとかだったらどうしよう…」と直前までびびりらしく心配していたのだが、中の人はちゃんと存在していた。普通に笑顔が可愛らしくて、感じの良い女の子だった。めっちゃほっとした。

彼女も、部活の人たちもいい人で、ご飯会はすごく楽しかった。そのまま私と彼女は、その部活に入部することになる。その年度、私たち以外に入部する1年生は他にいなかったので、彼女が唯一の同期だった。

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それから1年間、くだらないことで大笑いしつつも練習と本番は真剣に取り組む部活の皆に囲まれて、最高の時間を過ごせた。「それから1年間」というのは、きちんと活動できたのが実際最初の1年だけだったからだ。

私が2年生になるタイミングでコロナが流行り始めたのだが、新歓が上手くいかずに新入生が入らず、残念ながらそのまま活動休止になってしまった。最後の新入部員である代の私と彼女が大学を卒業した今は、学校に部活の名前だけ残してもらっている。

活が名前だけのものになり、元部員の全員が大学を卒業しても、私たちは時々集まってはご飯を食べている。フリーランスがいれば正社員もいるし、大学を出た後に進学した人もいる。早くに転職した先輩が焼き鳥をほおばる隣で、新卒からずっと同じ企業にいる先輩がビールを飲み干す。普段はバラバラの道を生きているのに、ひとたび集まれば一瞬で大学時代に戻って盛り上がれるからこそ、この場所は私にとってすごく大事だなとしみじみ思う。

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ちなみに、私のただ一人の同期は大学卒業後に専門学校に進んでいる。進学してまで勉強したいことも持たず、就活して社会人になった私とは全く異なる毎日を送っているはずだ。それでも笑い方や話し方、纏う空気は、初めて出会った4年前と変わらない。
その存在感が、ありがたい。

びびりの人間が、びびりのくせに、びびりながらもツイッターの鍵を一時的に外したのが始まりだった。「絶対誰からも反応ないわ」と半ばあきらめて投稿したツイートにまさかまさかのリプが来て、結果的に素晴らしいコミュニティへの扉が開いたのだ。

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SNSは、一歩間違えたら傷つけられるし傷つく場所になりうるものだ。副業か何かで情報発信したい人でもない限り、やっぱり鍵はかけておいた方が安全だと思う。でも、使い方にしっかりと気をつけていれば、新しい出会いや学びに繋がる手段であるのもまた事実だ。 

私は、今は持っている全てのアカウントに鍵をかけている。外す予定は当分ない。でも、いつかやりたいことができた時、そしてそれを実現するのに近道になる場合…、その時はがちゃりと鍵を開けて、未知の世界に足を踏み入れてみようと思う。