「普通『4年間』というくくりだと、大学生活の4年間を書く人が多いんだろうな」と、思った。今回の「4年間で変わったこと」というテーマを目にしたときのことだ。私は休学期間2年間を含め、大学には6年間在籍した。これは書いていいものなのか?と一瞬で迷子になった。
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次に「応募数少なくならないかな」と編集部さんが心配になった。次回のテーマが「コロナ禍で変わったこと」と、この2019年-2023年の4年間の出来事とかなり被るためだ。余計なお世話である。その上、迷子になったり心配になったり情緒が忙しいやつだ。一番心配すべきは私自身なのかもしれない。
でも、かがみよかがみに70本近く投稿してくると、テーマを見た瞬間、このように色々なことを瞬時に思いを巡らす一種の慣れのようなものができる。ご容赦願いたい。
冷静になって、この2019年から2023年の4年間を振り返ると、公私ともども多くの変化があった。令和になって、コロナ禍になり、ウクライナ戦争が起こり、東京オリンピックが開催された。
私個人としても、大学在籍時だけでも、コロナ禍直前にドイツ留学に行き、就活をして、卒業論文を仕上げ、大学を卒業した。社会人デビューした後は、4か月の休職も経験しながら、同棲開始し、実家を離れて引っ越し、かがみよかがみに出会ったことで、書くことと読むことと劇的な再会を果たした。
「人生は劇場である」ってシェイクスピアの名言だったっけ。まさに「人生は『劇』的な『場』面変化があるもの」である。これら、何か一つをあげるだけでも、それでけで2,500字の字数の上限制限に行きそうだ。
しかし、あえてこの4年間の「1番の変化」をあげると、私は「自分でお金を稼げるようになったこと」を推したい。
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「脛齧り」
この難読漢字をさらっと読めてしまうのは、自分が実際に長いこと「すねかじり」だったからだろうか。それとも「すねかじり」を長年続けた結果、それなりに有名どころの大学で学問を修めることができただろうか。多分、両方だ。私のすねかじり歴はそれほどまでに長かった。保育園から大学まで公立であるというと、「まあ親孝行ね」だなんて、そらもうウケが良いのだが、実際には私にはその間に4年間の空白の期間がある。
大学受験に失敗して高校卒業後浪人することになった私は、そこで精神疾患を発症した。詳しいことは過去のエッセイで書いてきているので省略するが、高校卒業から大学を卒業するまで、結果8年間かかった。
その間、大学受験予備校を2度も中退し、4年間は自分の部屋の布団の中に引きこもった。大学に入ってからも、体調を崩し2度休学。この間全部親のお金で生活している。復学した後も、自分の遊び代くらいアルバイトで稼ぐべきなのに、体調が安定しないことを理由に、お小遣いをもらって生活していた。
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私には2人の親友がいるが、一人は高校卒業後すぐに働き始め自立していて、もう一人は浪人期でさえ朝バイトのシフトに入ってから予備校に行くという生活を送っていた。そんな親友や当たり前のようにバイトする友人らに比べて、自分が恥ずかしくてたまらなかった。
そんな私も2020年度になると、大学4年生に進級し、卒業論文に取り組むことになった。奇しくもコロナ禍で遊びにいく所がなくなったせいで、私は卒論執筆にのめり込んだ。夏休み中ドイツ語文献と英語文献解読に没頭する日々。そうして出来上がった卒論は、担当教授から「僕が担当した中で最も素晴らしい卒論だった」とお褒めの言葉を頂くほどのものだった。
そして誰よりも、その卒論と担当教授のお褒めの言葉を伝えたい相手が、これまでずっとすねをかじり続けた両親だった。私の書いた卒論を読み切ると、父は冊子から顔を上げ、「大学院はいいのか」とぽつりと呟いた。「うん、いい。やりきった。後は勉強したくなったら、自分のお金で続けるよ」と返すと、「そっか」とまたぽつりとした言葉が返ってきた。
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大学院という選択肢。卒論に熱中する間頭に浮かばないわけがなかった。でも、それ以上に私は「自分でお金を稼ぎ」たかった。だから、卒業論文でやり切れるように、大学院に行かないことに後悔しないように、全力を注いだ。天秤で大学院の反対側にかけたのは「お金を稼ぐことで得られる自由」だった。
自分のお金で自分の医療費を払えるようになるってどんな気持ちだろう。自分のお金で大切な人にプレゼントを贈るのって、選ぶのもさぞ楽しいんだろうな。本を買うときだって、服を買うときだって、美容院で髪を切るときだって、化粧品を買うときだって、旅行に出るときだって、自分の力で稼いだお金で。これまで、親のすねをかじれた私は、とっても幸運だった。そのことは間違いない。でも、申し訳なさや恥ずかしさ、情けなさ、居心地の悪さを常に感じていたこともまた事実でもあったのだ。
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お金を稼ぐこと、それは大変なことだ。でもきっとそこには自由がある。そして、今度は言い切ってしまおう。お金こそが私たちの選択肢を広げてくれると。そう、かっこよく言い切ったけれど、実家を出て同棲を始めてから、私は今月もお金のやりくりにひぃひぃ言っている。パートナーがいて、自立できていて、これはある意味贅沢な悩みなのかもしれない。私がこの4年間で卒業できたのは、大学だけではなかったようだ。これが、私の4年間で変わったことのお話。