私に旅が必要な理由は、心のお守りを手に入れるためだ。
私は、年に一度、長崎に一人旅をする。
私の大切な年に一度の行事だ。
何しよう、どこ行こう、何食べようと胸を躍らせながら、行き先を決めている時間が何よりも楽しい。
21歳の夏の終わりに初めて長崎を訪れてから、長崎は私の奇跡の地
小学生の頃、ドラマで長崎のきれいな景色を見て以来、ずっと長崎が好きだ。
二十一歳の夏の終わりに初めて長崎を訪れた。
長崎市に初めて降り立ったとき、どこからか漂ってきた角煮まんの馥郁たる香りが鼻孔をくすぐった。得も言われぬ高揚感。
平和公園、グラバー園などの王道観光地をまわり、長崎の魅力をこれでもかというほどに味わった。長崎の方々は優しい方が多く、道案内をしてくださったり、私の身につけている持ち物や衣服を褒めてくれた。初めての長崎はとても心が暖かくなる旅であった。
翌年も、その翌年も長崎を訪れた。ランタン・フェスティバルを見たり、軍艦島に行ったりと、長崎の色々なものを見て長崎への思いを深めた。
旅行好きで、海外や他府県の観光地をたくさん訪れている私だが、世界で一番綺麗な場所は間違いなく夜の長崎港であり、どんな高級料理よりも長崎で食べるトルコライスが何よりも好きだ。
長崎は、私にとってのメッカで、奇跡の地である。
そう感じたのは、去年の長崎旅行だ。
去年は、十一月にGoToトラベルを利用して三泊四日で長崎を訪れた。
この旅は今までの長崎旅行とは少し違った、奇跡の旅となった。
私に三つの奇跡が訪れたのだ。
今までとは違う長崎旅行で起きた「3つの奇跡」が忘れられない
一つ目の奇跡は夜の寿司屋での出会いだ。
一日目に食事をした寿司屋で、旅行客の美男美女夫婦と隣のカウンターに座った。
彼らは、なんと私が住んでいる県の同じ市内に住んでいたのだ。出身大学も同じで意気投合し、会話が弾んだ。その際に「君は、人柄がいいね」「長崎に女性一人で旅行に来るなんてすごいことなんだよ」と何度も言葉にしてくれた。
その日に出会った見知らぬ人に褒めてもらえたり、自分を肯定してもらえるのはやっぱり嬉しい。日常的に会っている人からの言葉はもちろん嬉しいけれど、旅先で出会った人からの褒め言葉は自分に自信をもたらしてくれる。
その日のお会計はご夫婦が支払ってくれた。自分もいつか、年を重ねたとき、こんなふうにたまたま知りあった若者に優しくできる、そんな素敵な人になりたいと思った。
二つ目の奇跡は、夜の長崎港を散策していたときに出会った小さなかわいいお友達だ。
野良猫がいたのだ。野良猫は私の後にぴったりくっついてくる。私が歩けば猫も歩き、私が座れば、猫も丸くなる。今まで、猫と触れ合う機会がなく、猫に関心がなかった私であったが猫にドハマリした。
自分の中に今までなかった感情を、小さなお友達がプレゼントしてくれたのだ。
三つ目の奇跡は、素敵な方との出会いだ。実は長崎には大学時代の同期がいる。学部が同じで在学中も仲良くしており、長崎を訪れる際には美味しいお店や行くべき場所を紹介してくれる友人だ。
年に一度長崎に行くと、決まって大切なものたちが増えていく
奇跡が起こったのは星が降る夜で、私は眼鏡橋のほとりで夜空のタブローに散りばめられた星を眺めていた。日付が変わろうとしている時間に友人から、会えないかと連絡が来た。
二つ返事でOKし、待ち合わせ場所に向かうと、そこで待っていてくれたのは友人と友人のお母様だった。三人で飲みに行くことになり、お酒を飲みながら様々なことを語り合った。
将来の夢、今、夢中になっていることなど。話していると元気になって、自分ももっと頑張ろう。絶対に夢を叶えよう。そう思わせてくれる、とても素敵な方だった。
お会いできたことはもちろん、友人のご家庭で私の話をしてくれていることもとても嬉しかった。友人のお母様が私に興味を持ってくださって会いたいと言ってくださったことも。
そういうのすべてひっくるめて、私ってすごいじゃん?私もまだ捨てたもんじゃないじゃん?と思える。
長崎に行くといつも大切なもの、大切な人、大切な場所が増えてゆく。
年に一度しか行けないけれど大切なものや人に会うために、日々頑張ろうと思える。
そして何より、忙しい日常で嫌なことやくじけることがあったときに長崎で、誰かに優しくしてもらえた記憶や素敵な人と出会えた記憶が私を守ってくれる。
そんな心のお守りを得るために、どうしたって私には旅が必要なんだ。