「お酒はよく飲むんですか?」と、知り合って間もない人に聞かれることがたまにあるが、その返答には、いつもちょっと困る。
自分の周りには、「お酒が好きでよく飲む人」と「お酒が苦手でまったく飲まない人」が多い気がする。だけど、自分はそのどちらでもない。
お酒が好きな人たちといるとたくさん飲むし、飲む人がいない場ではほとんど飲まない。どちらも楽しいのだ。そうやって周りに合わせてしまう自分は、「お酒が好きです」とも「苦手です」とも言えず、自分のスタンスがないように感じる。

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前までは、飲み会では飲めば飲むほどいいと思っていた。
ふだんは人見知りな私。だけど、お酒を飲めば心を開きやすくなるし、周りの求める空気感に応えることができる。
そんな気持ちから、ついつい無理をしてしまったこともある。
例えば、大学生のころ。当時通っていた講座の飲み会の後、お酒による失敗をした。
その飲み会は自分が通っていた年の仲間だけではなく、他の年に通っていた人たちも集まる、期を超えた交流会だった。初めましての方も多いので、幹事さんが多くの人と話せるようにと「話せた人のスタンプラリーカード」を作ってくれていた。私は全員コンプリートするぞ!と意気込んでいて、いつもより積極的な自分になるために、ペースを上げてお酒を飲んだ。

結果、全員分のスタンプを集めることができたし、たくさんの人と話せて楽しかった。
しかし、帰りの電車で爆睡をし、起きたときには、電車は最寄駅から数駅離れたところを走っていた。そしてすぐに気持ち悪さが襲い、吐いてしまった。母が最寄駅に迎えに来てくれていたが、予定の時間になっても私が来ないので、心配のLINEが来ていた。
最寄駅に戻るための電車は、もう終わっていた。
母に電話をすると、めちゃくちゃ怒られた。申し訳なくて、見知らぬ駅のホームで泣き崩れていた。駅員さんに心配され、トイレにこもって吐ききって、回復してタクシーで帰り、2〜3万円くらい飛んだ。
そんなことがあった。

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それから5・6年ほど経った今では、吐くまで飲むようなことはなくなった。
大学生のころは、人と打ち解けるにはお酒が必須だと思い込んでいたが、今はそうは思わない。お酒をあまり飲まない人との関わりも増えたし、1人で飲んでも眠くなるだけだし……と、飲む機会はどんどんと減っていった。
居酒屋に行かなくたって、ファミレスでドリンクバーを何杯もおかわりしたり、海の家で食事だけしたりするのも楽しい。おしゃべりに花が咲いて、はしゃいで、気づけば時間が経っている。
そんなふうに、最近は子供のように楽しめる関係性が増えてきた。
お酒を飲むことで大人になれたような気がしていたけれど、大人の楽しみは、お酒だけじゃない。

ただ、お酒を飲まない人といると、「ちょっと飲もうかな」という気分でも遠慮してしまうことも多い。「飲むことが好きな人といるときはたくさん飲んで、飲まない人といるときはまったく飲まないのが無難かな……」と思うようになった。それは、「私がそうしたい」というよりは、「合わせた方が相手によく思われるのではないか」という気持ちからだった。
だけど、お酒をまったく飲まない人と食事をして「飲みたかったら飲んでいいからね」と言われたとき、安心してお酒を飲むことができた。
相手は、合わせてほしいわけじゃなくて、そのときの自分がしたいようにすればいいと思ってくれている。
ああ、それでいいんだな。

周りについていこうとして飲みすぎたり、周りに合わせて遠慮した経験を経て、周りじゃなくて自分の体調や気分に合わせて飲むのが一番いいとわかった。
私は、いつのまにか自分のスタンスを見つけていたんだ。
「お酒は大好きでも苦手でもなく、飲むことも飲まないことも楽しめる」
これが、私なりのお酒との距離感だ。

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今でも、お酒をたくさん飲む人の前ではたくさん飲んでしまいがちだし、まったく飲まない人の前では遠慮してしまいがちだ。どっちも楽しめるから、基本的にはそれでいいとは思っている。
だけど、「これ以上飲んだらやばいかも」というときはペースを落としたり、飲む人がいない場でも飲みたかったら飲んだり……そんなふうに、周りが飲んでるか飲んでないかじゃなくて、自分が飲みたいか飲みたくないかで考えたい。
「お酒はよく飲むんですか?」と聞かれたら、「たくさん飲むときもあるし、まったく飲まないときもあるし、どっちも楽しめます!」と、堂々と答えていきたいと思う。