フイルムカメラを片手に旅に出た。私の右手には27枚撮りのフイルムカメラ。隣にいるのは私のパートナー。パートナーの左手にもフイルムカメラ。
2人が向かう先は和歌山。そして、浮き彫りになった私の価値観とパートナーの価値観の違い。自分の自己肯定感の低さを痛感した22歳の夏の思い出の話。
事の発端は、スマホから離れたいというもの。旅先でも煩わしい連絡を見て、一喜一憂することが嫌だと思った私は、写真屋さんに向かった。そこで購入したのが『写ルンです』だった。旅先の思い出は、スマホではなく、この27枚に収めよう。そう思い、和歌山へ向かった。
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1泊2日の旅程は、1日目が三段壁周辺と橋杭岩を見て忘帰洞温泉のあるホテルに宿泊。2日目が、那智の滝を見てからアドベンチャーワールドに行く予定だった。
私は三段壁に着くや否や、シャッターを切った。片やパートナーは左手に持っているカメラを構えすらしなかった。橋杭岩に到着した時、ハイビスカスと共に撮影したり、水面に映る空を画角に収めながら撮影したりする私。一方パートナーはカメラをカバンにしまい、水辺のカニやヤドカリを観察していた。1日目に、13枚ほど撮影した私。パートナーは結局1枚も撮影しなかった。
2日目の朝、那智の滝を拝んだ。那智の滝を目の前にした私は、思わずカメラを構えていた。私の横で滝のしぶきにはしゃぐパートナー。そんな姿を撮影する私。パートナーのカメラは相変わらずカバンにしまわれたままだった。
そして、私たちは昼頃にアドベンチャーワールドに到着した。入園するや否や、隣からカシャッとシャッター音が。今まで、カメラをしまいこんでいたパートナーがシャッターを切っていることに驚いた。そこからは、カシャッカシャッとシャッターを切る音がよく聞こえるようになった。アドベンチャーワールドで、10枚程度撮影した私と、27枚すべてを撮影したパートナー。
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旅行から帰り、写真屋さんで現像してもらった。お揃いで買ったアルバムに、自分の撮った写真を綴じながら気がついた。私は旅行の時間性を写真に収めたかったんだなということ。そして、パートナーは自分の好きなものを収めたかったんだなということに。
もっと深く考えると、私の写真は誰かに見せるための写真で、パートナーは自分が見るための写真だった。
私は正直うらやましいと思った。この人は人からの評価を気にしていないと感じたからだ。そして、自分で自分のことを肯定的な評価ができていることもうらやましいと思った。
私は、うまい写真を撮ろう、映える写真を撮ろうと思ってシャッターを切っていた。誰かに「素敵な旅行だったね」って言ってもらいたい気持ちがあった。でも、パートナーは自分の写真を見ながら「良い旅行だったな~」、「肉食動物のエリアが楽しかったな~」と語っていた。それが、すごくうらやましかった。
撮影できる枚数が、27枚という限られた枚数だったからこそ、自分の心に向き合えたのだと思う。今回私は、自己肯定しているつもりで、他者肯定に依存していたことに気がつけた。私の理想は、自分で自分を肯定できること。そして、自分の好きを大切にできることだった。理想の自分に近づくためにも、自分の価値観の現状を知れたのはいい経験だったと思う。
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そう思いながら、アルバムにすべての写真を綴じ切った。そんな私のアルバムを見て、パートナーが私に声を掛けた。「Aちゃんの写真って、余白とかのバランスが似ているものが多いよね。物とか場所とかに対するこだわりはあんまりないけど、自分の美しいって思う感性を誰よりもAちゃん自身が信じているのが伝わってくるよ」と。
「なんだ、私も自分のこと肯定できてんじゃん!」と、心の声が口から出た。次の旅行では、自分で肯定できていることに気がつけるようになりたいな……と思いながら、アルバムを閉じた。