「青っ」
鏡の中に映る制服姿の自分を見るたび、私は必ず心の中でそう呟いた。高校生の頃の話だ。
自分にしか聞こえない呟き声のトーンは、非常にげんなりしたものだった。
私がかつて通っていた公立高校の制服は、ブレザーだった。
ブレザーといえば、生地は落ち着いた紺色で、下はチェックの柄が入ったスカートという組み合わせがよくある制服のイメージだろう。胸元には、スカートと同じ柄があしらわれたリボン。実際、受験時に併願で受けた私立高校はまさにこんな制服だった。
本命の高校は早い段階で決めていたけれど、ひとつだけ気に入らない点があった。それが制服だった。
紺色、というよりも限りなく青に近いブレザー。スカートも全く同じ色だった。光が当たると青みにはさらに拍車がかかり、その色合いが私は全く好きになれなかった。言葉を選ばずに言えば、「ヘンな色」「ダサい」と思っていた。
柄のない無地スカートはプリーツもほぼ入っておらず、ところどころに申し訳程度にひだがあるのみ。とにかくダサかった。腰元でくるくるとスカートを折り返し、できるだけ丈を短くすることでダサさの払拭に日々励んでいた。
◎ ◎
さらにツイていなかったのが、学年色だ。
その高校は、赤・緑・青がそれぞれの学年の色として割り振られており、上履きなどの持ち物の一部にアクセントカラーとして使われていた。そして、男女共通で制服はネクタイであり、このネクタイの色=学年色でもあった。
私の学年色は、青だった。これを知ったときは、思わず膝から崩れ落ちそうになった。
パンフレットで見た制服姿の先輩たちの中で、赤色のネクタイをしていた女子の先輩が記憶の中には強く残っていた。
ブレザーやスカートの青さは否めなかったけれど、それでも、えんじに近いその赤はとても深みがあり、リボンではなくネクタイという所にも心惹かれた。凛としていて、知的で、「私もこんな高校生になれるのかな」と中学生心にときめいたものだった。
晴れて志望校に合格できたのは嬉しかったものの、ネクタイは青色。
実際に胸元で結んでみると、とにかく青の主張が強い制服であることを改めて実感させられた。できることなら、赤や緑で緩和させたかった。青の異様な勢いをどうにかして他の色で抑えたかったのに、それは叶うことがなかった。
◎ ◎
けれど、そんな哀しい記憶も遠い昔話になりつつある。毎日制服を着ていたあの頃からもう10年も経っているなんて、未だに信じられない気持ちだ。
ヘンだのダサいだのと散々心の中で罵っていた制服も、実は3年前に刷新されたらしい。
あの独特の青みは、男女ともに新しい制服からすっかり消えていた。もう誰にも「青っ」とは言わせない、正統な紺地。
女子のスカートの裾には1本の白いラインが入っていて、ネクタイもそれまでは無地だったものの、ストライプの模様が斜めに走ったスタイリッシュなデザインに一新されていた。さらには、リボン or ネクタイ、スカート or スラックスを自由に選べる柔軟性も新たに加わっていた。
昔よりも格段にお洒落になった制服に、「いいなあ」と指を咥えたいような気持ちが少なからず湧いた。ただそれと同時に、変わりゆく風景にほんのりとした寂しさがよぎったのもまた事実だった。
◎ ◎
青々とした制服はずっと好きじゃなかった。同じく青色のネクタイも好きじゃなかった。
学校制服のネクタイやリボンはワンタッチ式であることが多いらしいが、かつて通っていた高校は違った。毎回毎回結ばなければならず、それもまた面倒だった。
ちなみに私は、ネクタイの結び方が下手くそだったらしい。自分ではあまり自覚がなかったものの、「もう、また曲がってるよ」「不器用だねえ」と友達に困り顔で直されることも多々あった。
好きか好きじゃないか、ダサいかダサくないか……といったことは置いといて。
あの頃の風景は、あの頃にしか見ることができない。もう二度と、蘇らせることはできない。
だからこそ大切だし、愛おしいなと思う。
同じように青い制服を身に纏って、友達と笑い合ったあの時間を私はずっと忘れない。