私の思い出の服は、薄手の淡色のトップスに黒のジャンパースカートをあわせたコーディネートだ。この服は初めて自分で決めてネットで購入し、初めて大学に行く日に着て行った服である。
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大学に入学したての数年前、私はおしゃれというものがいまいちわからない田舎者だった。小学生のころから高校生までは学校指定の制服があって、とにかくそれを着ていればみんなに馴染むことができたが、大学に入学して私服で学校に行くことになり、洋服選びにはかなり迷ったものだ。私はひとり、友人どころか知り合いなど誰もいない東京という大都会に、人もまばらな田舎から上京してきており、周りのおしゃれな同級生たちに後れを取らないよう必死だった。
特に、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除され、大学に初めて行くことになったあのとき、私は一層緊張していた。とにかく周囲から浮かないようにしなければ。あわよくば初めての友人ができればいいな、などと思いつつ、YouTubeなどでインフルエンサーの発信している動画をいくつも見たり、SNSで大学生におすすめのコーディネートを調べたりして、悩みに悩んで淡色のトップスと黒のジャンパースカートに決めたのだった。
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恥ずかしながら、自分で洋服を決めて自分で購入したのは私の人生においてこの時が初めてだった。小さいころから高校生まで服は母親と一緒に買いに行っていたし、優柔不断な私は、いつも「この服とこの服ならどっちのほうが似合うと思う?」だとか「この服に何をあわせて着たらいいかな?」などと母親と相談して決めていた。店舗での会計はいつも母がまとめて支払ってくれていたし、ネットで服を購入するときも、家庭の方針で「子どもたちはネットで欲しいものがあれば親に申告し親に買ってもらうこと」と決まっていたので、両親から届いた服を手渡しでもらうのが常だった。そのため、最初から最後まで自分で決めて自分のアカウントを使いネットで購入するという体験は私にとってとても新鮮で、一歩大人に近づいた感じがした。
大学に行く当日、いざその服を着てみると、背筋がしゃんとした。ネットで購入したからか少しサイズが大きかったが、何とかごまかしながら大学に向かった。道中、ジャンパースカートの肩紐が歩くたびにずれ落ちて焦ったのを今でも鮮明に覚えている。
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正直に言って、周りのおしゃれな同級生たちから浮いていなかったのか、今になってもわからない。ただ、明確な事実として友人はできなかった。大学に初めて入り、構内で迷いながらなんとか教室までたどり着いた私は、愛想笑いで近くの席に座っていた女の子と軽く会話して終わり、これからの大学生活に少しの期待と一抹の不安を抱いて帰路についたのだった。
今でもこの服に袖を通すと、当時の緊張や不安な気持ち、大学生活に対する淡い期待を思い出す。今は外出することもほとんどなくなり、おしゃれをする機会などは1年を通してもほとんどないが、次に少し背伸びをして出かけるときもこの服を着て行きたい。私が初めて自分ひとりで購入まで踏み切った服だ。せっかくならばもう着なくなるその日まで、この服と一緒にいろいろな思い出を積み重ねていきたい。