私はズルい。
恋を始めるときも終わらせるときも相手が言ってくれるように仕向ける。それが1番自分が楽だったからだ。

そんな私が、自分からお付き合いを終わらせたことが1度だけある。
その人のことが大好きでたまらなかったけれど、自分から別れを切り出した。

その時の複雑な感情は未だに忘れられない。

◎          ◎

その彼とは合計で約2年お付き合いしたが、1年経った頃に1度お別れをした。
共通の趣味がきっかけで付き合い、とても楽しい日々を過ごしていた1年目。彼の浮気が発覚した。
別れないつもりだったが、振られた。

こうなったら、しょうがない!と、別れたら切り替えの早い私は、次の人を探した。
その後出会った人と付き合うかどうかと良い感じになった頃、彼は私のもとに戻ってきた。
彼とは別れてからも連絡は取り合っていたが、まさか私が他の人と良い感じになってるとは思ってもみなかったらしかった。

彼と何度も何度も話し合って、良い感じになってる人にも話を聞いてもらい、彼は振り切るつもりだった。
でも私は出来なかった。
良い感じになってる人に、「まだ彼のことが好きなんだね。まだ俺に気持ちが傾いてるわけじゃないのはわかっている。でも俺か彼か選んで」とまで言われてしまった。

◎          ◎

本当は良い感じになってる人と付き合うつもりだったのに、彼と2回目のお付き合いがスタートした。
心の奥底に、彼を忘れることができない弱い私が居座っていた。

その後の1年近くはジェットコースターだった。
大好きなのに、彼が遠かった。
喧嘩するたびに甘い言葉と行動で丸め込まれ、復縁するにあたっての条件は全て守られなかった。
期限にしていた1年が経とうとした頃から、徐々に気持ちの整理をしようと考えだした。もうお付き合いをやめようと、何度も何度も頭の隅をかすめた。でも結局言えないまま、泥沼にはまっていった。

そんな事が続いていたある日。また彼の浮気が発覚した。それも私と同棲する部屋探しをする日に仕事と嘘をついて、その女の人と私との共通の趣味をしに行っていた。
私が怪我をしていて、共通の趣味を一緒にできなかったから。つまり彼は、私のことをその程度にしか思っていなかったのだ。
これがきっかけで少しずつ気持ちに整理ができた。

何度も離れようと思ったけれど、彼の甘い言葉、行動に騙されていた。
その事には後から少しずつ気付いてゆくのだ。今ならしっかりとわかるが、いわゆるモラハラ男だった。

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私はあの日を忘れない。
きれいな青空、真っ白な入道雲、暑い暑い夏の日。

別れ話をした後、途中まで同じ経路だったから、彼といつも通り電車に乗った。
先に降りるのが私だった。いつもと違ったのはここからだ。

「さようなら。元気でね」
電車から降りる瞬間、精一杯の強がりで笑顔で手を振り、振り向かずに改札へ向かって進んだ。

電車が走り去った後、泣くつもりだったのに涙も出ず、私の足は目的地に向かって力強く歩き出していた。

不思議な気分だった。大好きな人とお別れしたのに、ホッとした自分もいて、空が綺麗だったことを未だに覚えているのだ。

それから何度か彼から連絡が来ることがあったが、必要な連絡のみだけにし、それ以外の関係のない連絡には返信しなかった。

あの日が区切りだった。
さようなら。