単刀直入に言うと、私はお風呂場が嫌いだ。そのため当然お風呂に入る行為そのものも嫌いだ。嫌いなところで行うことが好きなわけがない。
なぜお風呂場が嫌いかと聞かれれば、それはずばり怖いからだ。主にお風呂場にある鏡が。

◎          ◎

鏡というのはなぜあんなにも怖いのだろうか。私の場合、鏡が怖い原因のひとつに、鏡を見ると無意識のうちに鏡にまつわる怖い話を思い出してしまうから、というのがある。
(ここに具体的な怖い話の例を書こうと思ったが、考えているうちに怖くなったのでやめにしよう)
きっと鏡というものが生活の一部として根付いていて、人々の多くが容易に想像できるものだからこそ、鏡にまつわる怖い話が多いのだと思う。

「子どものうちはまだしも、大人ならば論理的に考えてそのようなことはあり得ない。所詮作り話だと割り切ってしまいなさい」と言われたこともある。もちろん私も作り話だと思っている。だがそう思っていても怖いものは怖いのだ。作り話だと思うことと、怖いと感じないことはまた違う。洗面台の鏡でも十分怖いのに、お風呂場の鏡ともなるとその怖さはどんと増す。お風呂では服を脱いで無防備な姿になり、なおかつ一人になるからこそ怖さが増すのだろう。

◎          ◎

いくらお風呂に入りたくないと駄々をこねても、社会で生きて行く以上入浴は必要不可欠な行為だ。小学生のころからお風呂場が嫌いな私は、幾度となく試行錯誤を繰り返してきた。

まず試したのは、飼っている猫にお風呂場までついてきてもらい入浴することだ。お風呂場で一人になるから怖いのだと考えた私は、人と一緒に入浴することができずとも、猫にそばで見守ってもらえれば案外平気なのではないかと考えたのだ。本当は人と一緒がいいのだが、体が大きく成長したのだから一人でお風呂に入るのは当然だ。そもそも、もし人と一緒に入浴するとなれば、お風呂場の鏡が怖いという問題が解決しても、人に裸を見られるのが恥ずかしいという新たな問題が発生するので却下だ。

しかし、猫と一緒にお風呂場に入り入浴していると、問題が一つ発生した。そう、猫は水をとても嫌うということだ。猫に水がかからないように細心の注意を払いながら湯船につかることはできるが、猫をお風呂場に招き入れた状態で、猫を濡らさないように頭や体を洗うことはどう考えても不可能だった。 どうにか猫を濡らさずに一緒に気持ちよく入浴する方法はないかと考えたが、結局良い案は見つからず、一緒にお風呂に入るのはやめにした。もちろん、私もひとりの猫飼いとして何より猫が大切なので、かわいいかわいい猫様に嫌な思いをさせるなんてできない。

◎          ◎

私が次に試したのは、歌を歌うことだった。自分の好きな歌を絶え間なく歌うことで、頭によぎる数々の怖い話をかき消そうと考えたのだった。この作戦は最初こそうまくいっていたが、次第に両親から、歌声が大きくてうるさい、声が漏れていてご近所さんに恥ずかしいと言われてしまった。怖さをかき消すために歌っていると、どうしても大きな声になってしまうことは避けられなかった。

その後は小声で歌ったり、好きな人や推しのことを考えたりしながら入浴することで何とか耐えてきたが、お風呂場は結局いまだ怖いまま。今は人に会うことも少ないので、お風呂はシャワーだけで手短に済ませている。何かいい案はないだろうか。割と切実な悩みなので、誰かこの悩みの解決方法を教えてほしい。