母と選んだ紫色の振り袖。
私の戦闘服だ。
成人式と兄の結婚式の2度着る機会があった。
私は、この振り袖に袖を通す3度目の機会を設けようと思う。
◎ ◎
成人式の振り袖はレンタルで済ませるつもりだった。
そもそも成人式に出ることすら嫌であった。
中学時代の同級生たちに会いたくなかった。
私は中学時代にイジメを受けて、不登校気味だったからだ。
それは20歳になっても心の傷としてしっかり残っていたし、また罵声を浴びせられたらどうしようという気持ちがあった。
それでも行くことにした。
というのも、幸運なことに市町村合併のおかげで、高校時代の友達にも会える成人式に変貌していたからだ。
そして、母が振り袖を買う気満々で楽しみにしている横で「行きたくない」と伝える自信がなかった。
どうせ行くならイジメてきた人たちを見返したいと思い、いつもは選ばない派手な紫色の振り袖にした。化粧もしっかりして、普段しないネイルもして、武装した。
いざ成人式に参加すると、すれ違うことはあっても話すことはなかったし、何か言われることもなかった。成人式が終わった後、人伝てに「綺麗になっていた」と聞けたし、今まではなかった「同窓会に参加しないか」と電話もきた。もちろんお断りだ。
でもそれだけで十分だった。今の私は幸せに見えてるんだ、イジメていた人たちなんかに負けてないんだ、と自信を持てた。
◎ ◎
2度目の着るタイミングは、兄の結婚式で訪れた。本当は、ドレスのつもりだったが振り袖を着ることになった。
当時の彼氏にこっぴどく振られた直後の私にとって、兄の結婚式に出席することはとてもきつかった。大好きな兄と義姉の結婚式なのにうまく祝えない自分が嫌だった。
それでも振り袖を着ると、不思議と自信がみなぎってきて、当日は全力でお祝いすることができた。
悲しい思い出にならずに済んだのだ。
ただ、振り袖を脱ぐとメソメソした自分に戻る不思議な体験だった。
それからの私は、振り袖が頭から離れなかった。
振り袖がくれる勇気や自信がとても気持ちよかった。
だから結婚する前にどこかで着れないか機会を伺ったが、そんな機会は訪れずに、私は結婚をした。
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振り袖は未婚女性が着るものだからもう着られない。本当にもう着る機会がないのか、このまま箪笥の奥底で忘れられてしまうのだろうか、と考えていた。
それで見つけたのがオリエンタル和装という結婚式用の着付けだ。
振り袖にハサミを入れることなく、ウェディングドレス風にアレンジする着付けである。
全国でもこの着付けをできる人も式場も少ないけれど、私はオリエンタル和装で式を挙げたい。
この戦闘服から最後にもう1度だけ自信をもらおう。
そしてもうこの戦闘服が無くたって、私は自分で自分に自信を与えてあげられる、そんな風になりたい。
みんなから祝福された後、箪笥で次の時が来るまで幸せに眠ってほしい大事な大事な私の戦闘服。