私は生まれも育ちも東京の、生粋の東京人だ。生まれた病院も東京、通った学校も東京。
引っ越しは何回かしたが、東京から出たことはなかった。
生まれてこの方ずっと東京に居るのに、いつも東京に居る気がしなかった。
私はずっと東京に行きたいと思っていた。

18歳頃まで東京の郊外に住んでいた。東京なのに都会的なきらめきが無く、高層ビルや眠らない街のような騒がしさもない。夜は静かで虫の鳴き声が聞こえるし、晴れた日には窓から富士山の景色が見えていた。

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東京と聞くと、どこか都会的で華やかなイメージが思い浮かぶ。シティーガールを思い浮かべるし、キャリアウーマンを思い浮かべる。私が住んでいた東京にはそんなものはなくて、丸の内OLも、港区女子も、原宿の人気店員も、すべてテレビや雑誌やインターネットでしか見ることはなかった。

私が自分の住んでいる東京とメディアで目撃する東京に乖離があることを覚えたのは中学生の頃になる。当時の私はアイドルやバンドのファンになり、人気のアイドルが六本木や恵比寿で遊んでいること、バンドマンが高円寺や下北沢で飲み歩いていることを知ったことで、東京という言葉のイメージに私の住んでいる街は含まれていないことを感じたことにより、それまでずっと郊外の田舎でつまらない生活を送っていた私は、高校進学と同時に郊外から出たいと考え、23区内の高校に進学した。都心にアクセスしやすくなり、放課後は渋谷で遊ぶような女子高生になった。女子高生の間に制服を着て渋谷で遊ぶということは、まさに私の中の憧れていた東京に触れられた瞬間であり、思い出に残る経験となった。

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高校生になりアルバイトをはじめ、自由に使えるお金が増えたことにより、東京のいろんな街を歩いた。ミュージカル鑑賞に行くために丸の内を歩き、バンドのライブを見るためにお台場を歩いた。お台場に向かう際に乗ったゆりかもめでは海が見えて、都心からそう遠くない街なのに広い海がひろがっている光景がなんだかとても不思議に感じた。ここが私の求めていた東京だ、そう思った。

18歳になった頃、はじめて東京の23区に住み、そのきらびやかな雰囲気に感動した。新宿や渋谷などへのアクセスも良い街で、最寄り駅から自宅までの道中に映画館もあり、なんだか家に帰りたくない夜は映画館で映画を見てから帰宅していた。郊外に住んでいた頃は道中に映画館などなくて、簡単に芸術や文化的なものにアクセスできる都心が本当に心地よかった。生きることが退屈ではなく面白いものなんだと、初めて知った。
それからしばらくして今も東京に住んでいる。いや、生まれてからずっと東京に住んでいるけれど、あの頃のようにつまらなくて退屈な東京は今の私にはない。東京に居るのに東京に行きたいというフラストレーションを抱えていた私は、もういない。年を重ねるごとに憧れていた東京に近づいている気がしている。でももう少しだけ、私の憧れている東京に近づきたい。家の窓からは富士山じゃなくて東京タワーが見たいし、夜は虫の鳴き声じゃなくて車の音を聞いていたい。

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東京という街は面白い。街によって個性がある。ともに観光客も多く、日本というカルチャーが根強くある秋葉原と浅草では、似た共通点があるにも関わらず、街の雰囲気が全く違う。東京にはいろんな髪色で、いろんなファッションを纏い、様々な人が生きていて、とても面白い。私は私の生まれた東京ではなくて、ずっと憧れていた東京が、大好きだ。徐々に憧れている東京に近づいているのに、今でも夢で都心のマンションに住む夢を見たりする。私は今までもこれからも、ずっと東京が大好きで、東京に恋焦がれ生きていくのだろう。