タイトスカートを履きたくなるとき、あ、わたし恋してるんだって気づく。

買った時は覚えてないけど、履いた時は覚えている。タイトスカートって、そんな服だと思う。
わたしの住む狭いアパートのクローゼットには、女満載なタイトスカートが3着ある。
その中の白いタイトスカートは、私にとって特別だった。最後に履いたのは、去年のクリスマスの少し前。「白いタイトスカート」の彼とは、とある飲み会で知り合った。

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彼は大人数の飲み会特有の、“最後までちゃんと話せない人”だったけど、何ともいえない魅力があった。もう少し話したいと思っていた帰り、彼から連絡がきた。ふたりで会いたいというお誘いだった。前の恋人と別れて半年。タイプの男性と、俗にいうデートなんて実に久しぶりだった。「何着ていこう」。困っているわけじゃなく、実はうれしいこの感覚。
3年ぶりくらいかもしれない。ほろ酔いでクローゼットを開ける。服を合わせる。
彼と会うのは1か月先だというのに。デートのリハーサルをする夜だけは、妙な色気がある気がする。その真夜中のファッションショーで採用されたのは、どこで買ったか分からない白いタイトスカート。腰から足にかけてのぴったりとしたシルエットと、光沢のあるサテン生地。まさに「大人のオンナ」という服だった。でも、少し背伸びしたかった。
彼が4つ年上だったから。

女って不思議だ。この人に会えると思うと、どんな出来事にも耐えられる。半年前まで付き合っていた恋人を紹介した元キューピットに会った。「今だから言うけどさ、お前と付き合ってた時、あいつ別の女に片思いしてたよ」。そんな衝撃の告白にも、びくともしない。きっと、あの人と会う前だったら、別の感情になっていただろう。でも、わたしには彼がいる。かつての男の話は、見知らぬ芸人の結婚と同じくらい興味がない。「まあ、人間だもんね」。分かったように言う。「お前、やっぱ大人だよな」。

大人?大人ってなんだろう。いつからか、悲しさやショックを自分に取り込まないようにする癖がついた。その感情を丁寧にろ過してしまえば、きっと戻ってこれなくなりそうだから。それが、他人がいう「大人」ということであれば、わたしは17歳には成人していた。

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そういえば、元恋人はどんな女がタイプだったっけ。そうだ。ショートカットで、デニムが似合う女が好きだった。ショートカットであることだけは、わたし、きっと当てはまっていたかもね。だからなのかもしれない。その人の前で、一度もタイトスカートを履いたことがなかったのは。

「白いタイトスカートの彼」に恋して、1か月。あした、彼に会える。スカートには丁寧にアイロンをかけ、眠りについた。

19:00恵比寿。20分前についてしまった。だけど、はりきっていると思われたくなくて、わざと少し遅れると言った。久しぶりに会った彼は、Tシャツにデニムだった。

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はじめて会ったときのスーツ姿とはかなり印象が違う。彼が予約してくれたのは、ひっそりとした個室の焼き鳥屋。他にも女を連れてきたことあるんだな。わたしの本能が、そう教えてくれた。飲み始めると、やっぱり話が弾む。やっぱり魅力的。でも正面だとちょっと恥ずかしいから、カウンターがよかったかも。できれば、盛れる横顔のほうで。

「どう、最近彼氏できた?」。お互いほろ酔いのこのタイミングで、彼から聞かれた。
「そっちこそどう?」。わたしは、質問に質問で返してしまった。ビジネスならタブーなやつだ。でも、バレたくなかったから。
「すっごい、好きな女の子ができて。会社の子なんだけど」
あぁ、やっぱり人間だもんね。好きになるよね。でも、わたしじゃないんだね。
「モテそうだし、きっとうまくいくよ」。また、今夜も大人ぶった。その後の話なんか、まるで覚えてない。でも、きっと会社のその子と会うときは、薄汚れたデニムは履いてこない。そう自分を説得しつづけたことだけは覚えてる。

東京恵比寿。噓みたいに長い夜。早く帰りたいのに、歩きづらい。
あぁ、そうか。タイトスカートだった。こんな夜なら、昔のデニムにすればよかった。