私は童貞気質だ。しかも、女性に求める理想が高いわりに、身近さや親近感まであってほしいと願うタイプの、傲慢な童貞。
そのことに改めて気がついたのは、元推しのあの子の存在があったからだ。

とりあえず、元推しはMちゃんとする。
Mちゃんは、大所帯の女性アイドルグループに属していた。私は元々そのグループのことがそれなりに好きだったのだけれど、Mちゃんが加入したことで、更に本格的に追いかけるようになった。

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Mちゃんは、私からするとダントツで眩しく見えた。綺麗なロングの黒髪、程良く甘い透き通った声、緊張するとすぐに泣いてしまうところ、なかなかとれない方言、少し天然なところ、意外としっかりしたブログの文章。その全てが可愛くて、恋に落ちた。特に惹きつけられたのは、笑顔だったと思う。彼女の笑顔は、「アイドルがカメラに向けてくれた笑顔」なのに、「一緒に下校中、好きな子がこっちを振り向いてくれたときの笑顔」であるかのように錯覚させられた。それはお前が勝手にそう思ってるだけだろう、と言われたらその通りでしかないのだが、それくらい、素直な笑顔であるように映ったのだ。

そのように見えたのは、多分、Mちゃんがアイドルにそれほど興味がなかったせいもあると思う。
アイドルになる女の子は、自分もアイドル好きだった過去を持っている子が多いと思うけれど、Mちゃんは全くそうではなかった。アイドルをそこまで知らずにアイドルになったことで、ギャップについていけず苦しんでいるような場面もあったくらいだった。
アイドル好きによる、ファンからの目線を熟知した上で完成されたスマイルも勿論素敵だ。けれど、そうではない、天然素材の彼女の笑顔は、私からすると誰よりも眩しかった。

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そんなMちゃんに癒される日々を送っていたのだが、2年ほど前、彼女はグループを卒業し、芸能界を引退してしまった。そして、新たな道を歩み始めた。アパレルブランドの経営者となったのだ。
はじめの頃、私は未練タラタラだった。グループの新衣装が発表されると、Mちゃんも似合っただろうにな、と気落ちした。
しかし、そのような気持ちは次第に薄れていった。時間が経過したせいでもあるけれど、それよりも、経営者としての彼女を目にするようになったからだと思う。やりたいことを始めて、ブランドの長となった彼女は、在籍中よりもずっと腰が据わっているように見えた。そんな彼女を見ているうちに、段々と、恋心は小さくなっていった。

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要するに、私はMちゃんに「ちょっとおバカで危なっかしくて守りたくなる女の子」でいてほしかったのだ。そういう風に見える彼女に、恋をしていた。あまりにも童貞すぎる。いや、今時童貞だってそこまで幻想を抱いていないかもしれない。童貞のなかでも、ステレオタイプの童貞だ。

そんなわけで私の恋は、私の中の童貞性によって、終わった。我ながら気持ち悪い性質だが、直しようがない。
もちろん、今でもMちゃんを嫌いになったわけではない。インスタの投稿を見ると、やっぱり可愛いな、と思う。
私のような童貞のことは1ミリも気にしなくて良いので(言われるまでもなく気にしていないと思うけれど)、これからも頑張ってほしい。