サービス業界のとある企業の人事部。
決して知名度が高いわけでも、世間一般に言う魅力的な会社でもないと思う。サービス業と言っても奥深く、細分化すればマイナーな括りに属する。そしてまた、人事と言えば聞こえは良いけれど、学生時代にインターンシップや面接でニコニコと出迎えてくれた方々のその姿が、数ある業務のごく一部に過ぎなかったのだと気付かされる毎日だ。
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私はこの春に晴れて社会人となった。3ヶ月の研修期間を終えて正式に人事部に配属され、説明会や選考の対応、事務処理などを徐々に身につけながら現在に至る。
朝早くに出勤すること、積極的に行動すること、人前で話すこと、苦手な人と関わること、時に理不尽な言動や板挟みにも耐えなければならないこと。
学生時代には到底できる気がしなかったことが、実際に社会人になり、お金と責任が絡んでくると少しずつできるようになってくるのだから不思議だ。もちろん格別楽しいとか、面白いとかは思わない。けれど、辞めてやる!とも思わない。
その理由は、私の勤める会社には、私と似た人が多くいるからだと思う。私と似た人を説明するために、まずは私について記してみよう。
私は、器用に見えて不器用な人間だ。世代や国籍を跨ぐコミュニケーションはうまくやる方で、人当たりが良い、真面目で信頼できる、ピュア、などと褒め言葉をもらうこともそれなりにある。しかしその奥では、「普通」という言葉に括られるのを嫌う、強い自我のようなものが存在する。また人と話すことは好きだが、繊細な性格のために受けるストレスは大きい。責任感がある分、負担を感じたり緊張したりすることも多い。雑多な考えが常に頭の中をぐるぐるして、いつの間にか疲れている。そのせいで心身の調子が乱れたこともあり、今もその延長線上で毎日薬を服用しながら、自分自身との調和に気を遣い、働いている。
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簡単に言えば、何かしらの事情を抱えた人間だと言える。事情は誰にでもあるが、周囲からの理解を要するものとそうでないものとでは、やはり差があるように思う。例えば、持病のためにできる業務が限られるだとか、障害があってたまに発作が出てしまうだとか、そういうことは同僚や上司が知って配慮すべきことだ。
私の勤める会社には、こういった類の事情を抱えた人が比較的多い。急に倒れたり声を荒らげる可能性を持つ人、あるいは心でも体でも常に杖のようなものを必要とする人、その他にも様々だ。
だからだろうか、皆が寛容だ。それぞれ事情があっても、それを詮索したり咎めたりはしない。ほんの少し気を配りながら、仲間として共に働いていくだけだ。
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その雰囲気が、何となく好きだ。
見栄っ張りな私が、背伸びをしなくても良い環境だから。それは逆の立場になっても変わらない。共に働く人が背伸びをしなくていいように、その人が持つ事情を胸か頭の片隅に留めて、ある意味での覚悟を持って接する。自分が少し優しい人間になれる気がするのも、各々の事情があってこそだと思う。
大卒だけが集まった完璧な組織体とは程遠い、色んな学歴の、色んな事情を持った、色んなキャラクターが織り成すその会社は、外から見ればちぐはぐに見えるはずだ。でも、その不格好さに救われるようにして、私は明日も朝早くから電車に揺られ、不慣れな説明会を「やらせてください」と言って引き受け、時に上司たちの機嫌や指示にあたふたしながらも、そこで働くと思う。「正直、あなたがここにいるのは勿体ない」と言われたこともあるけれど、そんな言葉は今のところ私の胸には響かない。まだ暫くの間はここで働くから。