わたしは洋服が大好きだ。
クローゼットの中はいつもいっぱいで、どの服も一つ一つの思い出が詰まった大切なものだ。
その中でもクローゼットを開けるといちばん最初に目に入る、思い入れのある服がある。
今日はその1着について書いていこうと思う。 

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11月、私は待ち合わせをしていた。
少し寒くなってきた頃で、過ごしやすい日だった。
たくさんの人が私の前をすれ違っていく。
人と待ち合わせをするのにこんなにドキドキするのは久しぶりで、早めに着いた私は合流した時の流れを何通りもイメージしながら彼を待つ。

私たちはsnsで知り合った。
私は服が好きだったので、社会人になってから小さなアカウントで日々のコーディネートを投稿していた。
私と同じく洋服好きだった彼とはsns上ですぐに意気投合し、毎日メッセージを送り合う仲になっていた。

「聞いて!今日仕事でさ〜」「今日は夜何食べた?」「そういえばあのお店、新作の秋服出たね!」朝起きてスマホを見れば彼からのメッセージが来ることが当たり前で、寝る前まで時間の許す限り話をしていた。
私は、sns上で人と話した経験はほぼ無く、一度も会ったことのない知らない人なのに、こんなにも気が合うのがすごく嬉しかった。

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彼と話すようになって半年、彼から会ってみないか、と言われた。お互い顔写真などは交換していなかったので、彼が私より一つ年上ということしか知らなかった。
インターネットで知り合った人と会うのは流石に不安で、ものすごく悩んだが、彼と築いてきた半年という時間に掛けてみることにした。

そして11月、都内で行われている展覧会に一緒に行くことになった。
私は自分なりに考えた、特別なコーディネートでその日に挑んだ。
紹介が遅くなったが、私の思い出の1着は、彼に初めて会った日に履いた、茶色いスカートである。

それは近所のショッピングモールで見つけた、至って普通のスカートで、ブラウンの色味が気に入って買ったものだった。
私は身長が低めなので、大体のボトムスは裾上げをして丁度いいくらいなのだが、面倒くさがりやな性格のため基本そのまま履いていた。
そのスカートもやはり裾が長く、階段などでは引きずりそうになっていたので気をつけながら歩くようにしていた。

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待っていると、いつも彼のsnsで見ていた投稿の雰囲気を纏った男の子が歩いてきた。
多分彼だろうな、と思ったけれど自信はないのでメッセージを送る。
「もう着いてる?」
「着いてるよ!」
やっぱりそうだった。
お互いの目が合う。
彼と初めて会ったあの瞬間は、ものすごく鮮明に脳内に残されている。

顔の見えないsns上のメッセージから、実際に顔を合わせてのコミュニケーションは全く違った。ものすごく新鮮だったし、彼は思った通りちゃんとした人だった。
予約していた展覧会を回り終えて、お昼ご飯を食べる事になった。
ご飯のお店に向かおうと駅の階段を登っていると、彼が私のスカートの裾を踏んでしまった。
「ごめん!」

スカートの丈がもともと長かったこともあったので、全然大丈夫だよと答える。

ドキドキしたまま初めてのお出かけが終わり、また次の予定を決めて私たちは解散した。
予想以上に楽しい時間を過ごし、別れ際は少し寂しささえ覚えていた。

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そして何度かお出かけを重ね、私たちは付き合うことになった。
お互い服が好きなので、一緒に服屋さんにいってお互いの服を選び合ったり、公園やカフェで写真を撮り合ったり、2人で色んな所に出かけた。
たまにあの茶色いスカートを履くと、彼は期待を裏切らず一回は裾を踏んでしまう。
私はそれが面白くて、「今日はあのスカートだよ!」なんて言って彼を困らせていた。
そんな日々が懐かしく思える。

結果的に、私たちは別れてしまった。
お互い納得しての別れ方だったから後悔はない。
もう今はお互い、自分の進む方向を見て別々の道を歩んで行っている、行けていると思う。

今日もクローゼットを開ける。
久しぶりにこの茶色いスカートを履いてみようかなと思い手に取る。
彼はこのスカートを踏んでしまうくらい、私のそばにずっと居てくれたんだなと暖かい気持ちになった。

もう彼は居ないけれど、大切な思い出を一緒に過ごしてくれたこのスカートを、これからも大事にしていこうと思う。
今度、裾上げしに行こうかな。