高校を卒業するまで、東京は私にとって遠い場所だった。物理的な距離が遠いわけではない。家から東京まで、それほど時間をかけなくても行くことができる。十分、通勤通学圏内だ。

 ただ、心理的にはすごく遠くに感じていた。東京に行く機会があまりなかった私にとっては、人で溢れかえるスクランブル交差点も見上げるほど高いビルもテレビの中でしか見ない景色。現実に存在している場所だけれど、どこかリアリティーがない街。それが、私が東京に抱いていたイメージだった。

だけど高校を卒業して、東京と私の距離は一気に縮まった。池袋にある専門学校に通うことになったからだ。

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 通い始めたばかりの頃、私は目に入るものの全てに圧倒されていた。高い建物が多いが故の空の狭さ、お洒落な店がたくさん並んでいる様子、とにかく高い人口密度……。そのどれにも馴染めなかったし、少し気を抜くと迷子になりそうでドキドキしていた。池袋という限られたエリアでさえとてつもない迷宮に思えて、卒業まで毎日通える……? と心細くなったことを覚えている。

池袋に通って二年。今の私は、すっかり東京という街に慣れてきている。学校がある池袋は、どこに何があるか大体わかるようになった。入学したばかりの頃、クラスメートと遊びに行って、自分がどこにいるのかわからなくなってしまっていたことを考えると、大きな進歩だと思う。スマホを見ずにふらふらと歩いても、もう迷うことはない。池袋=迷宮という感覚は、私の中で崩れ去った。

それに、学校の授業やインターンなどで池袋以外の場所にも行く機会が増えた。渋谷、神保町、秋葉原、浜松町。色々な東京の街を歩いた。同じ東京なのに、街によって雰囲気が随分違っていて面白かった。実際にドラマや映画でしか見たことがなかった場所にも行けて、良い経験ができたと思う。

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そんな中で、一つ気が付いたことがある。それは、どの街も意外と狭く感じるということだ。東京に通うようになるまで、私は東京の街はどこも大きいと思っていた。何もかもに存在感があって、すごく特別な場所だと感じていた。

でも実際に歩いてみると、私が想像していたよりはずっと狭い。結構短い時間で、色々な場所を回れてしまう。大きなビルばかりだと思っていた池袋にも住宅街があるし、渋谷のハチ公は想像よりも一回り小さかった。

東京って、特別な場所じゃないんだ。

東京に通っているうちに、私はそう思うようになっていった。すごく遠くて、リアリティーのない街。東京をそう捉えていた頃の感覚は、もう取り戻すことができないと思う。東京、特に池袋で過ごす時間は私にとっては日常になったから。なぜかそれが、ほんの少し寂しい。小さい頃に遊んでいた公園が、大人になると狭く感じるあの感覚に似ている。たぶん、地元以外の場所に通うようになったことで私の世界が広がったのだ。

昔のように東京にきらめきを感じることはできなくなってしまったけれど、その分少し大人になれたのだと思うことにしている。