私にとってお風呂というのは、消費される日々の中で自分と向き合える貴重な時間だ。四六時中スマートフォンやパソコンとにらめっこしているなか、唯一、世界の音を断ち切って自分の心の声だけに耳を傾け、自分を見つめなおせる。

そんなお風呂でよく考えることといえば、過去の黒歴史や今日一日の過ごし方についてだ。ああすればよかった、こうすればよかったとぐるぐる振り返る。

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黒歴史として思い出すのは高校時代のことが多い。

高校の卒業式のあと、一人一人教壇で言葉を述べる時間があったのだが、私は緊張して顔を賞状で隠しながら「ありがとうございました」と述べるに終わった。もっと言いたいことはあったし、何より、中1の頃からの"緊張しい"が結局治っていなかったことがすごくショックだった。今だったら、心のままにありったけ話せる。気がする。

高校卒業後に校舎裏で好きな人に告白をした。2年間温めていた想いもあっさり振られてしまった。あの時ああいえば未来は変わっていたかなとか、好きになったあの頃からもう少しこうしていたらもっと仲良くなれていたかなとか、あれやこれや意味もなく考えを巡らせる。
楽しかった時のことも思い出す。あのご飯会楽しかったな、あの時ああいえばもっと盛り上がったかな、次はこう言おう、と思い出し笑いしながら振り返る。

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最近で一番多いのは、その日一日何もできなかったな、という反省だ。やりたいことはあっても、失敗することが怖くて、自分に才能がないことを直視することが怖くてなかなか実行に移せない。腰が重い。逃げ続けている。やりたいことリストばかりが溜まって、いざ時間ができても何も生産的なことをするモチベーションがない。

次第に、あれやりたいな、と楽しく思い描いている段階で、どうせ自分はやれないんだろうなと自分への期待をやめる。好きなことに挑戦して頑張っている人を見て応援している自分もいれば、嫉妬して苦しくなっている自分もいる。どうしたらこの連鎖から切り抜けられるのか。頭では簡単だとわかっていても、わからなくなってしまう。

しかし、暗いことばかりでもない。私にとって入浴という行為は、一日を生産性なく過ごしてしまった時の気分の切り替えとしても重要な役割を果たしている。

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身体の汚れと一緒に、ネガティブな気持ちも自然とはがれ落ちていく。油っぽくなった髪がツヤツヤになり、湯船に浸かると身体と一緒に心も温かくなってくる。心と身体の表面に貼りついたサビが剥がれ落ちると、次第に自分の本音が聞こえてくる。

受験期に、応援してもらったにもかかわらず頑張れなかった勉強をもう一度学習しなおして、黒歴史を塗り替えたい。

絵を描いてそれをプリントしたTシャツやガチャガチャのマスコットを作りたい。

着なくなった服のリメイクや自分好みに刺繍をしたい。

そういった自分の心が躍る小さな夢に出逢えたのもお風呂場だった。

お風呂は、心の奥に眠る小さな夢を発掘する洞窟でもある。

また入浴は、「嫌だと思うのは前だけで、始まってしまえば意外と苦じゃない、むしろやって良かったと思うことランキング1位」だと思う。
振り返れば、「嫌だけど、人生でコツコツ長く続けてきたランキング1位」も、他の何ものでもない、入浴だ。

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幼稚園〜小学校低学年のときは、一本のタオルをお姫様に見立てて1時間以上夢中でおままごとをしていた。そして出るのが遅いとよく怒られていた。兄と一緒に入って仲良くトンネルごっこすることもあった。

中学〜高校の頃は、その日した会話の再放送をしていた。その時好きな人との会話を思い出して悶えたり、黒歴史の反省会をした。青春の眩しく甘酸っぱい期間だ。

いつだって変わらない、家の狭いあの空間を、人生と共に過ごしてきた歴史がある。

お風呂は、入ることで体だけでなく心のサビも落とし、綺麗にしてくれる。

そして、嫌なことを済ませたという達成感、生まれてこの方それをずっと続けてきたという自信をくれる。

今日、明日、そして10年後20年後も、嫌々お風呂場に向かい、さっぱりした顔で帰ってくる自分が目に浮かぶ。