かがみよかがみのテーマが発表されて困ることは2つある。1つは全く何も浮かばないこと。そしてもう1つはアイディアが出過ぎてまとまらないことである。今回の「お風呂場で思うこと」は、後者だった。29年間毎日(たまにさぼって、きれい好きな同居人に怒られることはあるけれど)、一人だけで自分に向き合う個室。仮に毎日20分間入っているとすると、以下の式となる。

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 29(年)×365(日)×20(分)=211,700(分)=3,528(時間)

なんと今までの人生で3,528時間もの長きをお湯につかっているのである。なるほど、こんなにも長くお湯にひたっていれば、私の身体がお湯を吸収したかのようなぶよんぶよんなボディラインになるのも不思議ではない。それほどまでにお風呂は私たちの人生の一部であるのだ。そらエッセイの種も多かろう。以下はそれを徒然なるままに書き連ねたものである。

まず第1にお風呂に対する「恐怖」。今の私は、来る11月を恐れている。温泉旅行という名のぽっちゃりさんの公開処刑が近付いているのだ。公開処刑でも、同じようなわがままボディを持った友人同士ならともかく、今回のメンバーは中学時代からの親友2人との温泉旅行である。なぜそれが「恐怖」まで行くのかというと、親友2人ともモデル顔負けのスタイルの持ち主だからである。

まず親友Aちゃん。168㎝の長身、手足は細く長くすらっとしており顔まで小さく、一緒に街を歩けばモデルにスカウトされることなどざらである。次に親友Bちゃん。148㎝と非常に小柄だが、小さいながらもバランスが取れている。

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そのスタイル抜群の2人に私の裸体を見せなければいけないのだ。親切な外国人に妊婦だと勘違いされ、‘’I am not a pregnant!!!‘’と車内中にデブなだけで妊娠しているわけでないと大声で公表するという、インターナショナルな赤っ恥をかいた私の。これは恐怖以外の何物でもないだろう。

しかし、そんな私でも痩せていた頃は、友人に裸を見せることに全く躊躇なく、湯を共にしていた。第2に来るのは、お風呂に対する「楽しい」思い出である。高校の頃、私は女子サッカー部に所属していた。夏の練習が終わる度に汗と砂と埃まみれになり、チームメイトときゃあきゃあ言いながら、真っ裸でシャワーを浴びた。そのシャワーの気持ちよさと、そこで仲を深めたチームメイトに対する愛情を表現するには、字数もスキルも足りない。無念である。

シャワー室にゴキブリが出て、パンツ一丁で、片手にゴキジェット、片手に新聞を丸めたこん棒で退治したこと、「シャワー室に置く共同購入するシャンプーは、パンテーンとラックスどちらの匂いがモテるか」というくだらないテーマが、私たちの代で唯一開かれた部内会議の議題であったこと等は、「青春」という言葉を聞くと私が真っ先に思い浮かべる思い出である。こんな私でも裸の付き合いを楽しんでいた時代もあったのである。

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 最期に思い出したのは、受験期に友人と勉強合宿を友人宅で開いたときのことである。「風呂場ですっぽんぽんでも、格差はある」という学びだ。友人宅は渋谷駅まで歩いて行けるというアクセスからも察することができるが、まあお金持ち。下町出身の私からすれば、友人宅の全てがお洒落で洗練されているように感じた。

そのことを一番痛感したのが、お風呂場であった。敬愛するONE PIECEの登場人物・アルバスタ王国の国王コブラさんも「権威とは衣の上から着るものだ、だがここは風呂場、裸の王などいるものか」って言って裸で主人公たちにお礼してたしな。どんなお金持ちでも脱いじゃえばついてるもの一緒よ!という気持ちを切り替えた。

服を脱いだ。お風呂場に入った。髪をすすいだ。シャンプーをプッシュした。

その時だった。ふと見覚えのないシャンプーが外国製だということに気づき、興味本位でシャンプーの表示に目をむけた。すると使用法のそれに「マスカット大の量を手のひらにとってください」と書いているではないか。

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 ま・・・マ、マスカット・・・大・・・?

一瞬で私の頭はパニックになった。なぜなら、それまでマスカットを食べたことなど片手で足りるほどであり、マスカットの大きさを意識して生きてきたことなど一度もなかったからだ。ぶどう・・・じゃ小さすぎるしな、巨峰か???巨峰くらいの大きさと一緒なの?いや、言うて巨峰の大きさもよく分からない。

ていうか、この世でマスカットの大きさを日々意識して生きている日本人はいるのか・・・?どうせマスカットっていっても、安いのじゃなくて、最高級のシャインマスカットなんだろうな、ふんっ。あ、シャインマスカットって、「社員mass cut」で「社員大量リストラ」って意味もこじつけでありそう、さえてる私!とてんぱった挙句、意味の分からない着地をした。

こんな思いのたけを当時ハマっていたFacebookに投稿したら、なんと50イイネくらいついたのだった。裸で格差は感じたが、シャインマスカットによって私の承認欲求は無事満たされた。

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そんなこんなでお風呂に関するエッセイの種を徒然なるままに綴ってみたが、いかがだっただろうか。いつも以上にとっちらかった仕上がりとなってしまった気がするが、これもお風呂場で今回のテーマについて散々考えた結果である。

お風呂場で考えたのも、かのアルキメデスが浮力の原理であるアルキメデスの法則を、入浴中に思いつき「ユリイカ!(分かった!発見した!、という意味)」と叫んで裸で町中を駆け回ったという逸話からインスピレーションを得たものである。

私にとってエッセイは毎日の生活に「ユリイカ」を見つける大切な営みである。さすがに裸で町中を駆け回るわけにはいかないので、今回のお風呂場のテーマへの「ユリイカ」は、同居人に嫌な顔をされるかもしれないが、精々リビングを裸でうろつく程度にとどめておこう。で、マスカットって実際大きさどんなん?