学生の4年間。青春時代をつぎ込んだ。
とても好きで、好きで好きで好きで、大好きだった彼。誰に何を言われようと、傷つけられても、この人しかいないと思えた。ぱっちりな二重、手は少しぷっくらしていて、白い肌の彼。少しつけすぎたブルガリの香水が、別れた後も私の服に匂いを残す。そんな、私の大好きだった彼。
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絶対にこの人と結婚すると思っていた私に、「あなたはいつかプツンと目が覚める。それまでは大恋愛を楽しみなさい」と言ってきた占い師。
プツンと切れるなんてことなんてない。相性を知りたかっただけなのに。この占いははずれだな、と思いつつ、頭の中では占い師の言葉がずっと引っかかっていた。
交際4年目の春。私たちは社会人になった。私は東京へ行き、東北にいる彼との遠距離恋愛が始まった。私は、同期との寮生活、たくさんの新たな出会い、知らないことだらけの研修でめまぐるしく毎日を過ごした。
彼も研修期間を経て、忙しい日々を過ごしていた。
「会いたいよ」「家着いた?」「今何してる?」「電話できる?」
どちらかというと、これまでは私のほうが重いLINEを送る立場だったけれど、遠距離が始まってからは彼の方から止めどなくくるLINE。
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当時私は、同期との飲み会や平日の夜にテーマパークに行ったり、同室になった友人と一緒にご飯を作ったり、平日も休日も毎日楽しく過ごしていた。彼との電話よりもLINEよりも、新しい友人と遅くまで女子トークをすることが楽しかった。彼への連絡は疎かになっていた。
4月が終わるころ、「俺、仕事つらい」「もうだめかも」と彼から落ち込むLINEを送られてくることが増えた。私は、自分の研修と資格試験を目前に、彼への対応どころではない忙しさだった。
久しぶりの彼との電話。 「もうすぐゴールデンウィークだね。会うのを楽しみにしているね!」
私は、喉に何か詰まったような違和感があった。けれど、すぐに 『そうだね、早く会いたいね』と伝えた。これまで口癖のように何度も言ってきた『早く会いたい』の言葉が、すぐに口から出てこなかった。『私も今大変でさ。もう少しで会えるからそれまで連絡できないかも』なんて、言えなかった。
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ゴールデンウィークを迎え、私たちは2か月半ぶりに再会した。今思うと、たった2か月半。当時の私たちにはとても長い時間だった。
いつもの彼の匂い。大好きな落ち着く匂い。ぎゅっと抱き合って、思いっきり匂いを嗅いだ。少しやつれた彼の顔。「会いたかった・・」とつぶやく彼に、『私も会いたかったよ』の言葉が出なかった。ただ抱きしめ返す私。
仕事の彼を見送り、スーパーに行く私。夜ご飯はカレーにしよう。ずっと実家住まいの私は料理は得意ではなかったから、私なりに一生懸命にカレーを作って彼の帰りを待った。
「ただいまー」帰宅した彼は、「途中でおなかすいておにぎり食べちゃった!」とカレーをほんの少しだけお皿に入れて食べた。
彼とのつかの間の再会は終わり、東京に戻る日。「仕事が嫌だ」「働きたくない」「辞めたい」「つらい」数々の負の言葉をつぶやく彼。
彼から吐き出される言葉は、まだ離れたくない、行かないで、とか、私を恋しいと思う言葉じゃなかった。彼は少し鬱の始まりだったのかもしれない。でも私も右も左もわからない中、住み慣れない土地で毎日頑張っている。弱音を全力で受け止める余裕などなかった。
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新幹線に乗る直前、「大好きだよ」という彼の言葉に、私はなぜか涙がこぼれた。泣きながら『バイバイ』と言った。
どうして涙がでたのかわからないと思っていたけど、心はきっともうおしまいなんだと気づいていた。彼との4年間、色々あった。彼の女性関係に何度も泣いてきた。私はもう、つまらないことで泣きたくなかったし、彼がいなくても一人で歩いていける強い女になりたかった。東京に行く新幹線の中で、私の中で何かがプツリと切れた。
彼との交際中、誰に何を言われようと彼が好きだった。他の異性は眼中になかった。好意を持たれると、気持ち悪いとさえ感じた。
そんな私が彼とはおしまいかもしれないと気づいたころに出会った、一人の人。
初対面で、 「そんなやつ、早く別れなよ。俺と付き合おう?」とふざけて言ってきた人。言い慣れていないのが伝わって、可笑しく感じた。決して女慣れのしていない人。ほんのり柔軟剤の匂いがする人。ふっくらとは正反対の細身の人。私のなにも知らないはずなのに、付き合おうなどと言ってくる可笑しな人。
以前の私だったら「はいはい。そういうのいらないよ」で終わる。なのに、おかしい。なんだかこの人の周りがキラキラしているように見える。第三者の誰かが私に「この人を選べ」と言っている気がする。
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東京に戻ってきて数週間。彼への気持ちがすっかり薄れてしまった私は、電話越しで別れ話をした。泣いている彼。「なんで?」と言われ、私はなぜか咄嗟に「好きな人ができた」と嘘をついた。電話だけで無理やり別れを伝えた。嫌いになったわけじゃなかったし、彼への気持ちがゼロになったわけではなかった。「会ってちゃんと話したい」と言われたけれど、お別れをするために会ってしまったら、大好きだった匂いにひかれてしまいそうで、会うのを拒んだ。あんなに大好きだった彼との4年間はあっけなく終止符を打った。
それから数日後、私は、突然告白をしてきたあの人と付き合うことを決めた。
・・・好き?かは、よくわからなかった。でも、『私が必要なのはこの人だ』と感じた。このときから、私の長く続く恋が始まった。
交際が始まった4年後に、私たちは結婚した。「おいしいご飯をいつもありがとう!」毎日、お腹を空かせて家に帰りご飯をたくさん食べてくれる、私の夫。
今夜も、カレーを頬張ってくれている。