来年、私は18年ぶりにバレンタインの無い2月を過ごすだろう。私の恋心のほとんどをささげてきたといっても過言ではない片思いが終了したからだ。
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私には7歳から18年間バレンタインチョコを渡し続けてきた相手がいる。それは私が情緒不安定だった小学生時代に分け隔てなく接してくれた、クラスのとある男の子だった。彼は気さくで優しい人柄で、当時他人との距離感をつかむのが苦手だった私は人として尊敬していた。幼かった私の尊敬する気持ちは、あっという間に淡い恋心に変わった。
その後彼のご家族にも親切にしてもらい、つかず離れずの距離感で友チョコの名のもとに毎年会いに行く。片思いであろうともとても楽しい、温かい時間だった。今でも大切な思い出だ。
それに変化が起きたのは25歳になった今年だった。
彼はいつだって「手土産なんかいらないよ」「連絡はいらないからいつでも遊びに来て」と言ってくれていた。
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私は、そうはいってもアポなしで来客があったら困るだろうからと必ず事前連絡をしてきた。他人のお宅に上がらせてもらうんだから手土産だって必要だろう、とそう思ってきた。
しかし、彼にとってはそうでもないらしいことが分かってきた。
きっかけはLINEの返信の無さ。返信が無いだけではなく下手すると1カ月位既読がつかない。もしかして嫌われているのか、とも考えたが今年会った時に彼のスマホ画面がちらりと見えた。
そこにあったのは、ずらりと並んだ大量の未読通知。私以外の友人からのメッセージも全て見ていなかったらしい。私は頭がくらくらした。
想像するに、彼は本当に連絡というものがいらないのかもしれない。近所の友達と会うなら連絡なくふらっと訪れて、誰かいればラッキー。誰もいなければまた今度。会えても会えなくても気にしない。
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そこには良い意味でも悪い意味でも気遣いはいらない。スタンスの合う人には合うだろうが、合わない人には合わないだろう。残念ながら私は合わなかった。
私はパーソナルスペースが広い。そして他人の侵入に敏感だ。幼少期は家族で川の字で寝ると、隣で寝ている家族の寝返り一つで寝付けなくなった。成長してからは自室のドアをノック無しに開けられるのも苦手だ。いや、ノックの音にすら緊張してしまう。
つまり私にとって他人の訪れは一大イベントなのだ。だから最大限の注意を払う。だが彼はそうではない。ただそれだけのことだと頭では理解しているのに私の心は「無理だ!」と叫んだ。多分、幼少期に家庭の中でプライベートが守られなかったことが要因の一つなのだとは思う。鞄もノートも手紙も全部親に確認されてきた。だから他人の侵入に過敏に反応してしまい、今はまだ実害は出ていないけれどいつか侵入されると反射的に身構えてしまうのかもしれない。
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これまでの18年間はどんなに彼と私の考え方に違いがあっても何の問題もなかった。
私と彼は全く別の人間で、育ってきた環境も違う。全ての価値観をを合わせるなんて無理だし、そうする必要も全くない。そもそもただの友人なんだし…と思ってきた。
けれど今回の気づきで私は、彼と距離を置くことに決めた。正直まだ未練はある。それに私が気にしなければいいだけの話だ。それでも私は、他人との境界を取っ払ったようなやり取りに拒絶したい思いが膨れ上がってしまった。
きっとここら辺が潮時なのだろう。これから先で私に変化が起きてうまくいくのかもしれないし、このまま疎遠になるのかもしれない。それは分からない。今分かるのは、楽しい、好きだ、の気持ちでうっかり近づこうとすると私自身が勝手に傷つくことになるだろうという直感だけだ。
それに、正直なところ片思いを18年間も続けるのは疲れた。そろそろ自由になろうと思う。勝手に好きになって勝手に疲れるなんて、自分でもどうかと思うが仕方がない。
いったん心の距離を置いて、また縁があれば交わる道もあるだろうから。
私の恋の次回作に、乞うご期待!