私自身、生まれも育ちも東京、両親の実家や親戚もみな東京だったことから、短期間海外に行くなどはあれど、一生東京で暮らしていくものだと思っていた。
幼稚園〜高校まで都内の一貫校だったのもあり、大学ではじめて全国から人が集まる環境に進学した時は、自分がいかにこれまで「東京中心」で考えていたのかを自覚させられた。「ほんと、東京の人って、『日本=東京』と思って話をするよね」と東北地方の同級生にいわれたこともある。
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私の好きな東京のエリアは、品川〜大崎、お台場や豊洲など主に臨海副都心地域だ。品川〜大崎は生まれ故郷で、「ここが故郷でよかった。将来戻れるなら戻って仕事や子育てをしたい」といまでも思うほど、住みやすい街だ。とくに大崎は、かつては「山手線沿線一地味な街」といわれていたそうだが、再開発が進みアクセスがよくなり、職住近接の本当に便利で閑静な、駅も住民たちも品のある若手の多い街だ。
また、家から近かったこともあり、小さい頃よくお台場も車で遊びに行った。誕生日や絵画コンクールでの入賞など、なにかお祝い事があると、家族でお台場の日航ホテルにいって祝福の食事をしたり、祖父母と一緒にディズニーストアやNEXTに行き洋服を買ってもらったりした。それもあって、小さい頃の楽しい思い出といわれれば、真っ先に「お台場」が浮かんでくる。
また、これは大学生になってから開拓したが、田町や豊洲も憧れの街の一つだ。スマホを持てるようになると、地図アプリで歩いてもお台場に行けたり、逆に通学圏から徒歩で行けると判った、いままで行ったことのない場所へも行くようになった。たまたま定期券区間内だった田町で降りて、そこから歩いてレインボーブリッジを渡ったり、新橋から頑張れば歩いていけるとわかった豊洲にも通うようになった。田町も豊洲も歩道が広くハイデザインに住宅も整備されていて、子育て世代が多く、喧騒もなく、子育てやサイクリングに最適だなという印象だ。
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このような感じで、東京といえどいくつか街によって色々な顔があり、東京生まれ育ちの私も、都内にいまだにいくつか好きな街・憧れのエリアがある。
社会人になるまで、将来自分でどのエリアに住もうか暮らそうか、都内だけで考えていた。
しかし、社会人になり仕事の面白さは地方にあると思い地方転職をし、実際に色々な県や街を巡ると、衣食住の快適さ、生活のリーズナブルさ、子育てや仕事のしやすさ——などは、むしろ東京都外のいくつかの地方都市の方がそろっていると感じた。例えば、札幌や神戸にも滞在したが、この二つは一生住めるという感覚だ。東京のような便利さ快適さがそろっているのに、住宅価格がリーズナブルだったり、東京より人混みが少なかったり、札幌はといえばとにかくご飯が美味しかったり——。リモートワークが普及したのに、むしろ、なぜいままでずっと都内での生活のみを視野に入れていたのだろうと思うくらい、移住したくなる魅力的な街だ。
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東京を離れ色々な街を巡って思ったのは、東京は「最先端のオシャレ、待遇の良い仕事が集まっている場所」。オシャレはファッションも建築物も。ただ、ファッションはワンシーズンで替わってしまう、新服が欲しくなり毎年最新版を買ったところで翌年また替わる一過性ブームの虚しさも感じる。また、「待遇の良い仕事」といっても、東京にあるすべての仕事がそうだとは言えず、むしろそれらはほんの一部だったりする。たしかに「面白い人」は東京に多いのかもしれないが———。
「流行り」のあまりない地方に来てから、嗜好品と必需品を見極めるようになり、それでいうと、北海道は地の食べ物が美味しいので後者が充実した暮らしになっている。
生まれ育った東京では、最先端のモノを生み、最先端の仕事や暮らしを消費者として欲するシステムがあると大人になって感じている。なぜあんなに四六時中働き、なぜあんなに人混みの多い場所で生活し、なぜあんなに子育てしにくい環境の中でなんとかしようとしてるのか——地方都市圏暮らしの合理性からすると、ちょっと異常だなと思う。東京と同じような便利さ快適さがありながら、東京の負は少ない地方都市。仕事で全国を巡り、東京一辺倒でなく、自分のライフスタイルに合わせて生活圏も検討したいと思っているアラサーの秋だ。