私の平日は慌ただしく過ぎ去っていく。

朝早く起き、定時前から仕事を始め、昼休憩で一息つき、昼過ぎの眠気との戦いを経て、定時後も1時間くらいの残業をする。週3回ある出社日なら、それに往復2時間の通勤が加わる。仕事を終え自宅に帰る頃には、すぐにでも寝たいくらいクタクタだ。

それでも、夫と向かい合って夕飯を食べたり、一緒にお風呂に浸かったりしているうちに、そんな疲れはいつの間にか消えてしまっている。

私にとって居心地のいい場所は、間違いなく夫といる自宅だ。

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私と夫は今春に結婚した。

コロナ禍の遠距離恋愛を乗り越え、結婚して1ヶ月後に2人ともそれまで縁もゆかりもなかった土地に引っ越した。

私は元々ひとりで過ごすことは苦痛ではなく、むしろ快適に思うほうの人間だ。だから夫との同居は、楽しみでもあり、少し不安でもあった。

いくら夫とはいえ、元々他人だった者同士。連続で長時間を共に過ごしたのも、せいぜい数日間が上限だ。同居をきっかけに、遠距離の付き合いでは見えなかった(見ようとしなかった)相手の嫌な点があらわになるのではないか、全く恐れていなかったと言えば嘘になる。 

でも、そんな心配は無用だった。
不思議なことに、同居開始してすぐに2人での生活は馴染む感覚があった。

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話好きな夫に、話すより聞く方が好きな私。

愛情表現がストレートな夫に、あまのじゃくの私。
普段はズボラだけどいざという時頼りになる夫と、普段はしっかり者だけどいざという時うろたえがちな私。

一見真逆の人間に見えるけれど、だからこそ凸と凹が見事にはまり合う。

大したことない日常会話や、他人から見たら何のことかわからないくらい、くだらないことで大笑い。一見なんてことないそんな日々の時間こそが、何物にも代えがたいことを知っている。

とはいっても、夫に対する不満は決してゼロではない。家事の分担は守らずに結局私がほとんどやる羽目になるし、ぽっちゃり体型と自覚しているのに全然痩せようとしないし、不機嫌な寝起きの私にマシンガントークをふっかけるし......。

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贅沢な悩みとはわかっていても、また自分ひとりだけの静かな空間が恋しくなってしまう瞬間が時々訪れる。

そしてそれが不躾な願いだとすぐに思い知らされた。

先日、夫が海外出張のために家を出発した翌日、私は原因不明の体調不良で半日寝込んでしまったのだ。自分で自覚している以上に、私は夫を近くで感じていないと生きていけない体になってしまったのかと、少し悔しいような、驚くような、でもやっぱり腑に落ちるような思いがした。

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毎日夫の顔を見て、会話を交わすことが当たり前になればなるほど、私はこの居心地のいい場所に欠かせない夫の存在のありがたさを忘れないように自戒している。互いが素の自分を出すことができ、なおかつ平和な時間が流れるこの日常がどれほどありがたく、幸せで、手放すなんて考えられないことなのか、いつまでも忘れないようにしなければならない。

家事やダイエットはサボっても、夫は夫にしかできない「私を癒す」という仕事を完璧にこなしてくれている。どんな1日を過ごそうと、私が帰る場所である夫のいる自宅は、今の私の大きな支えとなっていることは疑う余地がない。

私はもう、「ひとりになりたい」なんて願うことはないだろう。その代わり、「この日常がいつまでも続きますように」と願いながら、今日も眠りにつく。