私には日常的にコーヒーを飲む習慣がない。調味料の砂糖を直接口に運ぶほど大の甘党な私は、正直コーヒーのことがあまり好きではない。私はいつも炭酸飲料などの甘いジュースを愛飲している。しかしこんな私でも、たまにコーヒーを飲むことがある。

高校生のころ、私には好きな人がいた(片思いだったので、彼女は私のことをただの友人だと思っていただろうけれど)。彼女はとても大人びていて、私の知らない世界をたくさん知っていた。そんなところも好きだった。

◎          ◎

当時の私は、好きな人の好きなものは自分も興味があるし、できれば好きになりたいと思っていた。普段なら絶対にやらないのに、彼女をまねして昼食にカロリーメイトを食べてみたりなんかして、そうしたら彼女に一歩近づけた気がして、ひとり心の中でスキップをした。

そんな時、目を付けたのがコーヒーだった。彼女はコーヒーをよく飲んでいたので私も飲んでみようかなと思ったが、彼女が飲むのはどれも苦そうだった。

そこで私は、思い切って彼女に聞いてみた。

「それさ、いつも飲んでるコーヒー、苦くないの?」

「そんなに気にならないよ、なんで?」

「いや、私もコーヒー飲んでみようかな~と思ったんだけど、苦いの苦手でさ」

「じゃあまずはカフェオレからチャレンジしてみるのはどう?牛乳混ざってるし苦くないし飲みやすいんじゃないかな。飲めたら感想聞かせてよ」

と、そんなこんなで私はカフェオレを飲むことになった。

◎          ◎

その日の放課後、私は自動販売機へ急いだ。コーヒーを買ったのは人生で初めてだった。一刻も早くカフェオレを飲んで、誰より一番に彼女に感想を伝えたかった。

一口飲んで感激した。すごい!初めて飲んだからか何だか変な感じがするけれど、でもおいしい!私はうきうきしていた。彼女との会話の種ができたのも嬉しかったし、コーヒーを飲むことで一歩大人に近づいた気がした。

次の日、一番に彼女にカフェオレの感想を伝えた。

「あのね、私、さっそくカフェオレ飲んだよ!人生で初めて飲んだコーヒーだったんだ。なんだか不思議な感じがしたけど、でもおいしかった!カフェオレをおすすめしてくれてありがとう!」

すると彼女は

「おいしかったならよかったよ。あなたの初めてを共有してもらえて嬉しい」

と言ってふわりと笑った。また一段と彼女のことが好きになった。

◎          ◎

それからというもの、私は校内の自販機でよくカフェオレを買うようになった。カフェオレを飲んでいるとちょっと大人になれたような気がしたし、何よりカフェオレを飲むたびに彼女のことを思い出せるのが嬉しかった。

ちなみに何度もカフェオレを飲む中で、ひとつ気づいたことがある。カフェオレって実はあんまり得意ではない。

後々になってわかったが、最初に飲んだ時にはあまり気にとめなかった「なんだか不思議な感じ」というのはカフェオレ内の牛乳成分がのどに引っかかるような感覚で、私はこれがあんまり好きではなかった。

彼女の好きなものを彼女と共有したい、私も彼女の好きなものを好きになりたい、という気持ちが先行していたためすっかり忘れていたが、私、コーヒーだけでなく牛乳も苦手なんだった……。

◎          ◎

カフェオレがあまり得意ではないと気づいたのが彼女と連絡を取らなくなってからだったというのもあり、私がカフェオレを飲むことはそれ以降ほとんどなくなった。

それでも、時たま思い出したようにカフェオレが欲しくなる時がある。お互いにいろいろあり彼女と連絡を取らなくなって久しいが、今連絡したら彼女は返信してくれるだろうか。ひとりそんなことを考えながら、私はまたカフェオレを飲む。