夜更かし、という響きは高校時代を思い出す。具体的には高校二年生の九月から十月頃。
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当時私には好きな男子がいた。彼は同じクラスで同じ文化委員だった。けれど接点はそれくらいで、日常での交流はほぼ皆無。
所属しているクラス内のグループ系統も異なるため仕方がない。私は比較的大人しい子たちと一緒にいたし、彼は同じサッカー部の男子たちと行動していたから。
しかしそんな私にも彼と関わることのできる唯一の機会があった。そう、文化委員である。私の学校は毎年十月の中旬に文化祭を行い、その時期になると文化委員は忙しくなるのだ。
九月頃から委員会の集まりが増え、時には放課後のみならず昼休みにも開催されることがあった。そして彼との時間も増えていく。
委員会のときだけ隣に座る彼との距離に毎回緊張したことも、一枚のプリントを二人で読んだことも、当たり前のように彼が私の苗字を口にしたことも。数年経ったいまでも全部鮮明に覚えている。
あれほど心臓を連日酷使したことはあの頃以外になかっただろう。
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同時に、眠れない夜が増えた。
文化祭が近づくたびに色々と考えてしまって落ち着かなかった。
このままもしかしたら彼と上手くいくかもしれない、なんて根拠なく脳内お花畑みたいなことも考えた。けれど根がネガティブな私はすぐにその夢を打ち消す。
いっそ文化祭が始まらなければいいのに、と少女漫画ヒロインのような痒いモノローグを頭の中で生んでは掻き消した日もある。
委員会繋がりで連絡先は交換していた。行動すれば何かが変わるかもしれない。……何が? と堂々巡りの思考と夜を重ねる日々が続いた。
胸が痛くて、熱くて、でも不快ではない高揚感もあって。拙いながらも恋を実感して見つめる自室の時計の針は、大体深夜一時を指していた。
まさか恋をして寝られなくなるとは思わなかったが、それほどまでに真剣だったのだろう。
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結局、彼との間には何も起こらず卒業したわけだが。
いまになって思うと、あの頃なぜ彼に惹かれていたのかわからない。
きっと羨ましかったのだと思う。当時同じグループにいた大人しい子たちはみんな穏やかで、でもその穏やかさが時折もどかしかった。
私は元来面白いことが好きだし騒ぐことも楽しいと感じるが、彼女たちは違ったようで。端的に言えばノリが微妙にずれていた。
しかしみんな優しいし良い子たちばかりで、一緒にいるのが嫌だったというよりかは居心地が悪かったと表現するべきか。
そんなわけで、私はきっと、彼が羨ましかったのだ。いつも心底楽しそうに馬鹿笑いをして、グループ内の誰よりも自由に走っていた彼が。
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今回のテーマ募集の要項を見て、ふと忘れていた高校二年の頃の思い出が蘇ったので筆を取ってみたものの。我ながら本当にたどたどしく幼い恋愛をしていたなあと苦笑が漏れた。
彼はいま元気だろうか。
いまさら繋がりたいとは思わないが、どこか遠くで彼が元気に笑っていればと願う。
そしてできるのならば、面と向かって感謝を伝えたい。
あのときあなたを好きで楽しかった。たくさん悩んで期待して、自己嫌悪したけど。
真っ直ぐに全力で恋することができて楽しかったよ、と。
また眠れないほど恋い焦がれる夜が訪れるようになったら、そのときは。
今度こそ重い腰を上げようと思う。