昨年の夏、ふたつの初めてが重なった。

ひとつは、気になる人と遊園地に行ったこと。もうひとつは、人生で初めてノースリーブを着たこと。

夏、ためらいなくノースリーブを着れる女性に憧れていた。

肩をむき出しにし、細い腕を際立たせるその服は、着る人の勇気を要する。少なくとも私は恥ずかしかった。体型に自信があるわけじゃないから肩を出すとそわそわして不安になるし、ムダ毛が多いから処理し損ねた毛が見えないか心配するストレスもあった。

それでも昨年の夏、初めてノースリーブの服を買った。気になる人とのデートの勝負服に。そして、新しい自分に出会うために。

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初めて買ったノースリーブ服は、GUのブラトップ。
ブラジャーとタンクトップが一緒になっている服で、これ1枚でトップスを賄える。

実際に試着してみると、やはり普段隠れているはずの肩が露わになり恥ずかしい。そして、下着感が否めず、さらに恥ずかしい。

やっぱりやめようか。でも、ずっと欲しいと思っていたし……。

迷った末、買った。しかも思い切って白と茶色の2着。以前購入した緑色のワンピースを上から羽織るコーディネートをすることで落ち着いた。あまりノースリーブの意味がないが、最初のチャレンジハードルは限りなく下げておく。

買う決断までは時間がかかったものの、買ってしまってからはずっとワクワクしていた。気になる人に早く見せたくてしょうがない。服が決まれば周りも整えたくなる。新調したファンデーションは、炎天下でも崩れないものを選んだ。おしゃれに磨きがかかる。

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遊園地当日、ついに憧れていたノースリーブを着て外に出る日がきた。

上からワンピースを羽織っているものの、袖がない肩の部分が涼しい。
自分が今まで体験してこなかった服。「ノースリーブを着れる女子はすごい」と、雲の上の存在のように崇め奉っていたものに、少し近づけた。ドキドキする。「服新しいね」「そういう服着るの珍しいね」とでも言ってくれるだろうか。その人は、誰も気づいてくれない私の髪型の変化に気づくくらい変化に敏感だから、何かしら触れてくれることは間違いなかった。電車内で何度もスマホの画面を覗いて前髪をいじり、直前でリップを塗り直す。初めての遊園地デートはもうすぐそこだ。

遊園地はとても楽しかった。けれどもその日、その人が私の服について触れることは一度も無かった。

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まあ、こんなもんだろう。そう思っても、どこかモヤモヤした。
遊園地の帰りに入った居酒屋でついに、私から切り出した。

今日、初めてノースリーブを着たんです。

「そうなの?その下、袖ないの?」と、ワンピースの下のノースリーブに興味を示してくれたので、私はワンピースの袖を少しずらす。そうだよね、見えなきゃわからないよね。

何となく会話が終わりそうだったので、ノースリーブの説明をもう少し詳しくした。これブラトップなんです、と。

「え、じゃあ今日ブラ付けていないってこと?!」

いや、だからそうじゃなくて、ブラとタンクトップが一緒なんです。

「そうなんだ……ブラしなくていいから楽でいいね」

(だからブラをしていないわけじゃなくて……)

そんなところで私は、ノースリーブの話を諦めた。

昨年の夏、私の初めてのノースリーブは消化不良で終わった。
けれどもあの日から私は、ためらいなくノースリーブを着るようになった。

ノースリーブはもう、気になる人のために着るものじゃない。今や私の気分を上げてくれる、夏のコーディネートのひとつだ。