私は男性が苦手だった。

苦手と言うより怖いと言った方がいいのかもしれない。

それはもう生まれつきで、赤ん坊の時から父親以外の男性に抱っこされると大泣きして嫌がる子供だったようなので仕方ないのかもしれない。

それは大学生になっても変わらなかった。

大学生になると、男女の交流も高校生より盛んになり、このままじゃまずいよなぁと思いながらもいつもビクビクしてしまう自分がいた。

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そんな時、バイト先で出会った男性に私は価値観をひっくり返される。

とにかく安心出来た。

彼はいつも助けてくれたし、優しかった。

と言っても下心がある訳ではなく、ただ彼がとても気を使えて、空気の読める器用な人だったのだ。

そんな彼と出会って、私はこんな男性もいるんだなぁと初めて男性に心を許せたし、それから彼を含むバイトのメンバーで遊ぶのが本当に楽しくて幸せな日々を送った。

彼が大学を卒業して、その後私が卒業しても繋がりは途絶えることなく、半年に1回はみんなで集まって騒ぐのが定番になっていた。

大学の頃から、いつも一緒に遊んだり、呑んだりしていたからか、 周りに付き合わないの?と聞かれることもあったけど不思議とお互いそんな気持ちは全くなかったと思う。

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私は彼のことを本当に信頼出来る兄のように感じていた。

私が仕事で駄目になっていた時、手を差し伸べてくれたのも彼だった。

家族にも頼れなかった私はいつも何か困ると彼に頼っていたような気がする。

鬱に悩まされた時も毎日のように心配の連絡をくれた。

それが励みになっていたし嬉しかった。

…まさかそれがカルト宗教の勧誘に繋がるなんてその時は夢にも思わなかった。

私が洗脳されかけていると気がついたのは、周りの友人達だった。

「大丈夫?」「なんか危なくない?」「しんどそうだよ?」

私が落ち込んでいたのにいきなり元気になったことに不信感を抱いたようだった。

彼が私の居場所を作ろうと勧めてくれたのが実は最近流行りのカルトだなんて信じたくなくて最初は友人達を拒絶しようとした。

けれど、当時付き合っていた彼氏に

「本当に頑張ってるのは分かってるよ。けど身体が心配だよ…」と言われて目が覚めた。

その場でiPhoneで検索すると沢山被害を受けた人の動画が出てきて、悲しくて悲しくて心にぽっかり穴が空いたみたいだった。

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 1番信じてた人に裏切られたんだ。

それから私は彼と連絡をとるのをやめた。

すると彼から怖いくらい電話が来て。

それでようやく実感した。

あぁ、私本当に洗脳されかけてたんだな…。

あれから2年がたった。

今なら、彼もあの頃仕事がしんどくて、彼自身が洗脳されていたんだとわかる。

彼が本当にいいと思って私に勧めてくれていたんだって分かる。

けれど、私はそっち側には行けないから。

人様になにかする前に踏みとどまれた自分に心底安心しているし、心配してくれた当時の彼氏や友人達にとても感謝している。 

裏切られたと思って当時は凄くショックだったし、きっともう会うことも無いだろう。

けれど、彼の連絡先は今も消せないままで。

もしかしたら、私は いつか、また彼とただの友人として会える日を今も待っているのかもしれない。