「クイックルワイパー」という単語を聞くと、ちょっと「ドキッ」としてしまう。

ときめきとか、そういう方向性の「ドキッ」ではない。「ギクッ」とか「ザワッ」と似た意味の方の「ドキッ」だ。そうなってしまったのは、数ヶ月前のある出来事のせいである。

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6、7月あたりにマッチングアプリに登録し、何人かと会っていた。そして7月の末頃、そのうちの1人と付き合い始めた。

付き合って1週間ほど経って、初めて彼を家に上げた。その時点で私はまだ一人暮らしを始めて3ヶ月ほどしか経っておらず、床掃除を行う道具がハンディクリーナーしかなかった。そのことを話すと「クイックルワイパーを買ったほうがいいよ」と勧められ、購入することにした。彼は家まで車で来ていたので、乗せてもらって夕ご飯を食べに行き、その後ご飯屋さんの近くのドラックストアでクイックルワイパーを購入した。

次の週、再び彼が家にやってきた。今度は金曜から月曜にかけての3泊4日。土日にアルバイトの予定があるということで、その2日間の日中は家にいなかった。なので、その間に購入したばかりのクイックルワイパーを使ってみることにした。私はやたらと髪の毛が抜けるタイプなので、シートの片面はしっかりと汚れた。しかし狭い部屋なので、シートを裏返して残りの床の上を滑らせると、もうそれほどには汚れはつかなかった。

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そこから数時間経つと、彼がアルバイトから帰宅した。少し経つと、彼は訊いてきた。「クイックルワイパーって裏面も使えること知ってた?」と。知ってるよ、と答えると「片面全然汚れついてなかったから、知らないかと思ったー」と返された。

…ん?

当然だが、私は昼にクイックルワイパーをかけた後、そのシートはゴミに捨てた。片面はあまり汚れが集まらなかったとはいえ一応両面使った後だし、付き合い始めたばかりの彼氏が家に来ている状況で、捨てることをサボるほどズボラな人間ではない。

つまり、捨ててあるクイックルワイパーのシートの両面に汚れがついているかどうか、わざわざ確認した、ということなのだ。いやまあ、家のゴミ箱には蓋がない。上から見れば確認できる状況ではある。だけど、だからと言ってそこまで見るか!? 捨ててあるシートの汚れまでわざわざ見て、その上でそのことを本人に確認、するか!?

あまりに驚いてしまって、「え、ゴミ箱見たの?」とまで聞くことは出来なかった。 

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このときに感じたうっすらとした怖さには、この後もちょくちょく対面することとなった。具体的に言うと、教えていないSNSのアカウントを把握されていたり、一緒にいるときに飲食店に予約の電話を入れて電話番号を答えていたら、それを横で聞いていて一発で覚えられていたり。一つ一つの出来事は、大したことはない。

しかしこれらが積み重なり、他にも言葉選びなど小さな怖さが積み重なり、結局お別れすることにした。別れるときにも一悶着あったものの、とりあえず無事に終わらせることは出来た。

相手のことをあまり知らないうちに付き合うことに決めてしまった私にも非はある。彼のこのような言動を、愛として受け取ることが出来る人もいるのだろうし。私は、家事について細かく把握されてコメントされることが嫌だった。それだけのことなのだ。

一夏の恋、と言うと聞こえは良いが、そこまでのロマンティックさを感じることは出来なかったこの関係は、2ヶ月で終わった。