「名古屋に来てたの?あいたかったがー」
大げさな方言で、精いっぱい自分を守った。本心を悟られないように、だけどこの気持ちができる限り届くように。
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高校時代に好きだった一色くんは、卒業後に関西に引っ越した。行きたかった大学に受かった瞬間から表情が晴れ晴れするようになった一色君をみて、一番幸せなのは私だった。
私は彼のことが、命を懸けて好きだった。「好き」という人工的な言葉で表すのが悔しいほど、とにかく彼が好きで仕方がなかったのだ。
不器用な人。だけど、誰よりも繊細で優しい人。不愛想な人。だけど、時々見せる笑顔はいつもはにかんでいた。私は彼のすべてを知りたかった。理解者になりたいというのは、完全に私のエゴだったのかもしれない。だけど、今がどんなに幸せでも、彼を超える人はこの先出会えないと思う。そう思える恋だった。
私が待っているもの。それは、文頭のメッセージの返信だ。卒業後、彼の友達のストーリーに一色君は名古屋に帰ってきているという情報がのったのをみかけた。
見慣れた背景画像。これは名古屋駅だ。帰ってきていたんだ。だったら、だったら、少しでも会えたらいいな・・。生半可な気持ち。届く訳なくても、叶いっこなくても、届けようとしないよりはましだ。行動しないよりましだ。
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それは、卒業してから約一年経っていた。
「名古屋に帰ってきていたんだね。あいたかったがー」
普段使わないような名古屋弁の使い方をして、私は精いっぱい反動形成をする。この気持ちがあけすけなのが恥ずかしくて、だけどラインをしなかったらきっと後悔すると思ったから。自分への挑戦。やらずに後悔よりやって後悔。棺桶の中で後悔するような人生はもう嫌。伝えない後悔が一番残る。さまざまな名言が頭をよぎった。
返信が来たかどうかは、いまだにわからない。なんとそのあとに急に恥ずかしくなって、私はトークルームを消し、挙句の果てに彼をブロックした。そして友達から削除した。私は大好きな大好きな人をブロックした。人は時々、行動が矛盾する。自分は、自分に一番弱い。
あれから返信が来たのかどうかもわからない。だけれど、時々妄想することがある。
「俺も」
そんなメッセージがもしあのあと返ってきていたのなら。私の運命は、今と大きく違っていたような気がする。
だけど、彼に限ってはそんなこと言えるようなタイプではないとも思う。きっと、なんと返信したらよいかわからないまま、未読のまま削除されたはず、そう。きっとそう思う。
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あれから時がたって、一瞬の夢を見たかのような日々も終わり、私には安定した彼氏ができた。包容力のある三つ年上の人だ。冬が来れば、五年記念日を迎える。結婚の話も、きっともうそろそろだ。
だけど、時々思う。一色君は、今どこで何をしているのだろう。どんな人生を送っているのだろうか。その笑い方は、変わっていないのだろうか。どんな仕事をしているのだろうか。どこに住んでいるのだろうか。だれかと幸せになっているのであろうか。
私は、自分の人生と同じくらい彼の幸せを望む。おせっかいでもいい。エゴでもいい。
私は君が、大好きだった。
もし何かのきっかけで彼がこのエッセイに気が付いてくれたのなら・・・。
その時は、コメントをくださいね。