今までに私が「居心地がいいな」と思った場所はたくさんある。例えば職員室や図書館、学食の個別スペース、研究室、自室のお布団の中など。この場所にいれば私は居心地のよさと安心を得ることができた。
職員室???と思う人もいるかもしれないが、私にとって職員室は先生方から様々な話を聞くことができる空間だったのでとても居心地がよい場所だった。
さて、私にはたくさんの居心地のよい場所があるがその中でもとっておきの場所があった。それは小学校の空き教室である。
◎ ◎
私が生まれた地域は過疎化が進み、次第に空き教室が多くなっていった。空き教室は何も手入れをされることがなく、机や古くなった本が次々と持ち込まれた。
教室のドアはスズランテープで大きくバッテンがされており、雑紙に“立ち入り禁止”と書かれていた。“立ち入り禁止”にされた理由はおそらく机が高く積み上げられており、重い本が所狭しに置かれていたからだろう。使われない空き教室は奥の方にあり、誰もが好んで入る場所ではなかった。
でも“立ち入り禁止”と書かれると入りたくなる。それが私という人間だ。
◎ ◎
友達は「あそこ、危ないから入らない方がいいよぅ」と私をなだめていたが、放課後になると私はこっそりその空き教室へ行き、本を読んでいた。
その空き教室はいつもシーンとしている。誰も入る人がいないので教室の中は少しほこりっぽい。机と本がたくさんある教室内は少し迷路のようになっていた。本は床に置かれていたり、机の上にのせられていたりした。また本が崩れると困るせいか、紐で縛って読めないようになっていた。
でも縛ってある本が読みたい!と思ってしまうのが私という人間だ。せっかく見つけた自分しかいない秘密基地みたいな場所。小さな手で結び目を解いて空き教室で本を読んだ。それから私は空き教室で本を読む習慣を身につけた。
◎ ◎
この空き教室で先生に見つかったことはない。友達も誰も来ない。私だけの秘密基地。私だけの居心地のよい場所。
「誰かに教えたいなー」と思ったこともあったけれど、みんなが通う学校内に私だけの秘密基地があることが嬉しくてずっと秘密にしていた。
「ここに自分が使う物を置いておこう!」
「少し飾ってもきっとバレない!」
そう思い立った私は空き教室を自分だけの秘密基地として作り直そうと考えた。
本の場所をかえて死角を作り、ドアからは見えないようにし、自分の私物や休み時間に作った折り紙を本の上に置いて飾った。読み終わった本は元と同じように縛り直し、積んでおいた。
この秘密基地は卒業式が行われる数日前まで存在した。誰も知らない私だけの居場所。
◎ ◎
ここを去るのは寂しかったけれど、元々は“立ち入り禁止”だった場所。でも私にとっては最高の居場所だった。
今もあの空き教室は存在するのだろうか。私がいた頃のように机と本が積まれているのだろうか。誰かの秘密基地になっていたりしないだろうか。
私の居心地のよい場所へ機会があれば戻ってみたい。