黄色いお布団の上に、スライスチーズの枕を乗せる。じんわりと温まってきたら、端からくるくると起こしていく。楕円形だったつぼみが、芳醇な香りを漂わせると、タイムラプスのように刻一刻と大きな花をひらかせる。だし巻き卵と、たこさんウインナーのできあがりだ。

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私は、4年前には想像すらしなかったことをしている。お弁当を作ることだ。これまで、自分一人分のお昼ご飯は、外食が全てであった。ふと、誰かのお弁当を見てお弁当を作るのはどうかと思い浮かぶことは時々ある。しかし、何かを作る精神的余裕がないこと、時間が勿体ないと感じていたことから、私には縁の遠い話だと思っていた。

お弁当作りは、早朝から職人のような何段階もの仕込み作業を求められる気がしてならなかった。SNSを開いた時に、煌びやかで絵画的なお弁当を見たことから、更にハードルが上がってしまったのかもしれない。余裕がなければ、とても大変なことだという認識でいたのである。

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些細なきっかけだった。クレジットカードの請求額が、このところ高額に感じる。誰が使っているんだ!と文句を飛ばしたが、紛れもなく自分なのである。外食とともに、都度あれこれと買っているアイスやヨーグルトやチョコレート・・・。それらの一瞬の至福を止める気は一切ないのだが、一部をお弁当に替えたら少しはお菓子代に回せる、いや、ヘルシーになるのでは、とぼんやり考えた。

一日だけやってみよう。その思いつきで自然解凍の冷凍食品や、ミニトマトなどすぐ食べられるものから買ってみた。私のお弁当箱は大きい。メガネケースくらいのお弁当箱で談笑する人々をよく見かけてきたが、内心とても足りないと思ってしまう。ゆえに、テトリスのようにスペースを埋めるべく、具材集めに奔走することになる。

そんな中、レシピで見つけたのが、だし巻き卵と、たこさんウインナーのコンボだ。よくある料理でも、どこか懐かしくてかわいらしい。小さな四角いフライパンの部屋の中で、黄色いだし巻き卵と、足が立体的になったたこさんウインナーが次々とできあがった。

朝起きて作るのは無理だと判断し、夜に作って冷蔵庫に入れた。それが良かったのか、お弁当作りは一日で終わることなく、何度か回数を重ねていった。気分が変わってご飯にふりかけをかけてみたり、梅干しを乗せてみたり・・・。おかずのカップに彩りが加えられていくと、何の変哲もなかった箱に対して、急に愛着が湧いてくるのはなぜだろう。遠足の前日になった気分だ。

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長年の間、難しいだろうと感じていたことは思い込みだったのかもしれない。実際にやってみないと分からないことは無限にあるのだと思う。新機軸のタイミングは、ほんの少しの気が向いた瞬間、ほんの少しの時間が生まれた瞬間にしか訪れないかもしれない。風が吹いた時、たんぽぽの綿毛が偶然くっついてきたような、さりげない巡り合わせ。最も自然体で動き出した感覚を私は忘れたくない。