ゴリゴリの屈強な不眠症だ。たぶん大型猛獣用の麻酔銃でもブチ込まれなければぐっすり眠れないだろう。それは今に始まったことではなくて、幼い頃から上手く入眠のフェーズに入れた試しがないので恐らく未来永劫、コレが治ることはないと思う。上手く眠れないから夕飯やお風呂が済んでも本を読み続けたり映画を見続けたり、眠気がふと訪れるまで時間を潰す。

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そんなことをしていると両親からの「もう寝なさい」コールが鳴り止まないのは想像に容易いと思われる。その通りで、不本意ながらも夜更かししまくる私は家での肩身が狭くなっていった。我が家は生活サイクルがキッチリしており早寝早起きお茶の子さいさいな人たちばかりなので共感もされることもなかったのだ。すぐに眠れもしないから布団に入っても1、2時間ほど無意味に寝返りを打ったりする時の「今ムダな時間過ごしてるな…」感。家で堂々と夜更かしすることができない。だがしかし眠れない。そこで行き着いたのは本片手に野宿することだった。

夜は好きじゃない。眠りたいのに眠れず暗くなったテントで悶々としている時間でしかない。眠れない焦りを感じるともう眠れない。ごろりと体勢を変える。窓付きのテントにするんじゃなかった。ネオンライトに慣れている人たちは実感が湧かないかもしれないけれど、月が出ている夜というのはとても眩しい。満月や周りに人工的な灯りがない場なら特に。小さい窓から月光が降り注ぐ。めちゃくちゃ眩しい。絶対に眠れない。雲一つもないなんてな。などと悪態をついていたのだが、周囲に街灯もないような場所だったので月の傍をこまごまとした星々が燦々と煌めいている。

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そういえば、今見える琴座や白鳥座、鷲座は神話が元だったよなと思い出す。不思議だ。どう頑張っても琴にも白鳥にも鷲にも見えないのに古代の人たちはそれらに見えたらしい。星座は沢山ある、こぐま座、乙女座、いるか座、北斗七星にオリオン座。あれら一つに一つに物語があるなんて壮大だ。色も、一番星の名前も星座を作り上げている星の個数もバラバラだ。物語を持つ存在が私の目の前に無数といっていいほど散らばっている。知識がなければただのポツポツとした光だが、少しの知識があれば“ただのぼんやりした月の隣の光”ではなくなるのだ。そんなことを考えていると途端に星たちについて知りたくなった。そしてこの夜から読む本のジャンルがローマやギリシアの神話や星に関する分野になった。

星や天体、惑星に関する興味は褪せない。同じ星を題材にしているのに解釈が国や地域などによって全然違うのも面白い。例えば天の川でいうと織姫・彦星伝説とギリシア神話では、天の川が生まれた理由も役目も流れている“川の内容物”も違う。織姫・彦星伝説では彼らを分かつ“ただの水の流れ”だけれどギリシア神話ではヘラの…。まあこの辺のお話は語りだすと一夜でも千夜でも語ってしまうので割愛する。

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数年前、夜更かしをする理由や星々に纏わる話を親友にしたところ「あなたみたいな人が星座を見つけてきたんだね」と言われた。昔は眠れない夜が嫌で嫌で仕方なかったが、今は星座に思いを馳せながらテントの中で寝っ転がる事が本当に楽しみだ。私だって、もしかすると夜更かしの賜物として新たな星を見つけ、新たな物語を紡ぐ事になるかもしれないのだ。眠れない事をマイナスと捉えず良い方向へと肯定してくれた親友に感謝している。

今では夜になるのが楽しみだ。私のように夜、眠れない、または眠らない人たちが星座を見つけ名づけ継承してきたのだろう。私は今夜、新たな星を発見する夜空の開拓者になるかもしれないのだ。そんな期待に胸を膨らませつつ相棒の望遠鏡を組み立てる。最近寒くなって空気が澄んできたから星の輪郭がくっきりしている。ココア片手に今日も私は夜空をゆるゆる見渡す。