旦那さんは、泣く時も笑う時も喧嘩する時もどんな時だって一緒にいる愛しき人だ。
仕事の都合で長期間離れることはよくあるが、その度に寂しかった。
旦那さんはいつでも私の太陽だ。
「旦那さんの隣にいるだけで私は私に戻れる」
ただそれだけだと思っていた。

結婚前の一緒に住んでいない頃、正直私はまだ彼に心を開いていなかった。
気持ちが沈んだ時はひとりでいたかった。持病が発症している時の自分は見せたくなかった。それでも彼は根気よく向き合ってくれた。

その人柄に惹かれて結婚したのだが、見事に沼にハマった。
私が私を好きでいられなくても、絶対に私を好きでいてくれて全てを包み込んでくれる。
そんな存在である旦那さんの隣が私の居場所だ。
何があっても揺るがない。そう信じて毎日楽しく過ごしていた。

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そんなある日、およそ1年弱の間仕事の都合で住み慣れた街を離れ、見知らぬ土地でふたりで過ごすことになった。
環境の変化に弱い私は辛いと感じ、自分らしくいられない日が増えていった。
その度に旦那さんに泣きつく最悪な状況だった。
「なんで、なんで」とひとりでひっそり泣くことも多かった。
旦那さんが居なければダメだし、むしろ旦那さんさえ隣にいれば良いと思い込んでいた私は、自分で自分の状況についていけなかった。

結局私は体調を崩し、ひとりで実家に帰ることになった。
本当は見知らぬ土地だろうが何だろうが、ふたりで住み続けたかったけれど、私の身体がそれを許してはくれなかった。きっと気付かぬうちに、心が悲鳴を上げていたのだろう。
新しい環境に適応するのはそれくらい私には難しいことだった。

体調が優れない日々を過ごす中、旦那さんが仕事の合間を縫って実家まで会いに来てくれた時は、私らしくいられた。
やはり、「私の隣には旦那さんがいればいいだけなんだ」となお一層思ったのだが……。

◎          ◎

少し体調が落ち着き冷静に考えた時、私の感情が揺れ動いているのを感じた。
旦那さんが実家に会いに来てくれても、いつもの半分くらいしか自分らしくいられないのだ。離れなくてはいけない寂しさからだと思っていたのだが、どうもそうではないらしい。

体調が回復しても心の悲鳴は収まらず、例えひとりだとしても、ふたりで住んでいたあの街に帰りたいと嘆くことが増えた。

知らぬ間に私は前住んでいた街が大好きになっていたようだ。いつの間にか私にとってなくてはならないものとして、あの街が加わっていたのだ。

なんの縁もなかったあの街は、就職と同時に住み始めた。
大学生の頃に素敵だなと思っていた街ではあったが、まさか住むとは思っていなかった。それに地元大好き人間の自分の中では、地元が1番だと信じて疑っていなかった。
それなのに今私は実家にいても、あの街に帰りたいと嘆くようになった。
結婚してもそのまま住み続けていたわけだが、大切な街になっていたようだ。

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旦那さんに依存気味の自分に嫌気がさしていた私には朗報だった。
住み慣れた街ならひとりで旦那さんの帰りを待てるかも、と考えられる自分に喜びを感じた。旦那さんだけではなく、住み慣れたあの街が私を私らしくする。
つまり、「ふたりで過ごしたあの街」が私らしくいられる条件なのだ。
あの街で旦那さんと沢山の思い出をまたいっぱい作りたい。
またふたりで暮らせるようになり、あの街に戻れる、そんな日が来るのを心待ちにしている。