「佳奈子、そのままでいいんだよ
私がずっと待っているもの。それは、この言葉だ。
以前付き合っていた彼とは、20代半ばの2年半の月日を共に過ごした後、今後お互いが一緒になった後のキャリア観や生活観でどうしても同じ方向をけずに別れてしまった。

私にとっては”初彼”で、付き合った当時27才だった彼にとって私は、8人目の彼女だった。

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社会人になりたての私と、元々業界の特性上、クライアントワークで昼夜をわず仕事漬けだった彼。付き合う前までは、そんな仕事の忙しさを隠して、「僕は暇だよ。休みの日なんて、1日13時間寝てるし」「会社は別に何時に出社してもよくて、出社したら本読んでるよ」などと言って、一緒に週末にランチデートしたりした。

私はで、そんな彼をみて、「会社上激務なはずなのに、なんでこんな自由で何にも縛られてないんだろう」とどこか新鮮で愛おしかった。もっといえば、その当時の私は欧米系の多国籍チームで働いていて、社内の欧米特有のプロアクティブな社風に少し辟易としており、周囲の評価や給与といった側面を一切気にせず、のびのび事業や自分のスキルアップの方だけ向いて仕事をしている(ようにみえる)彼みたいな人と、会いたかった。

でも、実際、彼は忙しかった。付き合ったあと、徹夜明けの彼と2時間だけ休日デートしたが、本当はまだ残業が山のようにあり、私に会うやいなやイライラしていた。
彼とは、何度も喧嘩した。喧嘩するたび、なぜか必ず私から「ごめん」と言っていた。ごめんと言うと、さすがに彼も黙って私の頭をなでたり、次のデートのお店はランクアップしてくれたりした。

彼も、「もしこの仕事でなければ……。もう少しワークライフバランスをとれる職場環境だったら……」と心の中では思い、たとえ徹夜明けで喧嘩しても、「ごめん、会えない」と当日に連絡がきても、彼を察して怒り返さない私に対し後悔していたと思う。

私は基本上機嫌な人間なので、寝不足の彼と会話がかみ合わない度に実は自信をなくしていたし、彼も彼で、私に会う約束をするたび本当は悲しませてしまっている事実へ罪悪感がちり積もっていた。
彼の仕事の、2人の将来像をきいても、私は以前の私のように明るくいられず、残念ながら彼を心から応援しようとは思えず、自分の中で別れを決意した。

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心の中でお別れを決めてそれを言葉で告げるまで、ほんとうに長い時間だった。

彼を前にお別れを告げた時は、意外とあっさり、また友人に戻ったような不思議な感覚だったが、自分の中だけで別れることを決意してからの期間は、彼と過ごしたこれまでの日々が走馬灯のようにいくつも思い浮かんでは消えた。

そんな中で、実は、いちばん求めていたものは————。
「佳奈子、そのままでいいんだよ
この言葉だったと気付いた。

仕事熱心で疲れている彼の前で、気を立てないように、といつもどこか空元気で愛想振りまいていた私。本当の私は、空元気なんかではなく、根から明るい一途で希望的な人間だ。

「佳奈子、そのままでいいんだよ」今度は、そんな太陽のよう私と一緒にいても、こう言ってくれる人と末永く一緒になりたい。いままで有難う。