「東京って冷たいかな? 温かいかな?」なんて話題がよく上がると思う。そうすると「みんな忙しくしてるから余裕が無くて冷たそう」だとか「人が多い分活気もあるし、温かいよ」と言う人もいて、この話題に関する意見は千差万別だろう。
しかしながら、こういう話題が上がる時は結局の所、大都会なんて言われるくらい大きな街である東京をどっちかに絞れるのだろうか。いや、熱い、冷たいなんて分ける事が出来ないじゃないのかなと思った。
そして自分なりの答えとして東京は白湯みたいに体の中から沸き立たせる位、温かくもあり、時としてぬるま湯のように徐々に外から体の温度を下げてくような場所なんじゃ無いかなと思った。
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自分は東京には住んだ無い。だが、何度も足を運んだ事はある。それは遊びであったり、就活であったり……。なんにせよ、どんな時も何かしらの目的地として東京はいつも際立っていた。それ故にいろんな数え切れない程の思い出や感情といったストーリーがある。1つ1つを思い返すとあの日の事のように鮮明に思い出すのだ。
さて何故自分が東京を白湯みたいと思ったかと言うと東京はいつだって自分の胸を熱くし、ポカポカさせてくれていたからだ。
大学生の頃、自分はとあるアニメにどハマりした。当時これといった趣味が無かった自分にとってそれは大きな起点になった。
そのアニメのキャラクターが大好きで大好きでそのキャラグッズが欲しい為に自分は半引きこもりの生活から外に飛び出し、東京へと向かった。「推しのグッズが手に入るかもしれない」その想いが溢れて道中の電車の中もワクワクが止まらなかった。楽しみで頬が緩みニヤける自分ははたから見たら中々ぶっ飛んでいるように見えたんじゃないかと今でも思う。
池袋のアニメイトやゲームセンターに行っては夢中で推しのグッズを探したし、買えた時にはこの上ない喜びに満ちていた。コラボカフェに行った時には好きなキャラで溢れる空間に胸がときめいた。推しアニメのイベントがあればどこにだって飛んで行った。それがとてつもなく楽しかったのだ。
東京に行く度、心は熱くて熱狂していた。そしてふと周りを見渡した時にその熱量は自分だけに留まっていなかった事を目の当たりにした。推し活バッグを片手に無数の缶バッジやアクリルキーホルダーを飾り付けて、更にはぬいぐるみを持ち歩き、推しメンカラーで闊歩するファンがそこにはたくさんいたのだ。その人達も目を輝かせながら推しを眺めては愛おしそうにグッズを購入して喜び、色めきだっていた。
推しを愛する気持ちはみんな同じで優劣なんてない。東京という所は好きな物が好きなだけ集まる中心地と言っても過言でない。だから、その分大勢のファンが押し寄せるのだ。好きな気持ちを1人だけでなく皆でシェア出来るこの空間は東京でしか味わう事が出来ないんじゃないだろうか。
他にも好きなバンドのライブ、人気の食べ物、オシャレやファッション⋯⋯どこだっていつだって好きという気持ちで溢れていた。それがなんとも心地の良い事か。
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それではぬるま湯とは何かと言うとという話になる。東京には数え切れない程の人がいる。新宿なんかに行けば人と待ち合わせするには困難を極め、一生会えないんじゃないかなんて思う位だ。楽しい事もあれば同じくらい怖い事や悲しい事も多々ある。
地方の小さな町や村であれば待ち合わせも分かりやすくスムーズだし、近所を歩けば知り合いにすぐ会える。しかしながらその状況は常に誰かが誰かを知っていて、自分の事を知らないという状況にはなりにくいという事だ。
自分はたまに誰も自分の事を知らない所に、どこか遠くに行ってしまいたいという衝動に駆られる。そう思う理由はそれこそ多種多様ではあるが、自分じゃない自分として街を歩きたくなるのだ。そんな時、東京はとても良い。木を隠すなら森の中と言ったみたいに東京の雑踏の中を歩いていると誰も自分の事を気にも留めないし、自分も気に留めなくて良い。程良い距離感が確立されていると思うのだ。
あれだけ多い人に囲まれていると人酔いしてしまう気もするが、自分を知らない人がたくさんいるというのは妙な安心感があった。誰も知らない環境にいるのはある意味自由なのだ。
ふとお店の窓に映った自分を見た時に「あー、自分はこんなにもたくさんの人の中でごく普通に馴染んでここを歩いているんだな」と安心する。知らない誰かとして存分に街を歩いた後に自分が自分として戻る時が来る。その時になって初めて自分を客観視して見つめ直す事が出来る。そうすると悩んでいた事とかコンプレックスとか割りと大丈夫なんじゃないかなーとまさにぬるま湯に浸かってたみたいにクールダウン出来るのだ。
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人の数だけ想いがあってその分喜びや楽しみ、厳しさや辛さもあるけれど、熱くもなれて冷たくもなれるそんな空間で生きていけるのが東京なんじゃないかなって思う。自分の心を激しく突き動かしたくなった時、きっと自分はまた東京に行くのだろう。次はどっちの温度を求めて向かうのか、未来はまだ分からない。