『待つ』というのは、結構難しい。

「人気で行列のできるお店」は、期待値高めながら並んで、微妙だったときのことを考えると、じゃあいつものあの店が安定だよな、と結局行かない選択肢を取ってしまう。

「好きな人が振り向いてくれるまで待つ」というのも結構苦手で、学生時代は自分から告白して玉砕することもあったくらいだ。

悩んでくよくよする時間が嫌いで、結局は行動してみないとわからない。

悩むくらいなら、自分から白黒つけにいけばいいだろ。と、わたしの性格は塩が強めなのかもしれない。

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そんなわたしが、望まぬフリして待っているもの。それは『プロポーズ』

塩が強めな私でも、この瞬間だけはほんのり甘めの淑女でありたいと願ってしまう。

けれどそれは、パートナーにも、友達にも言えなかったりする。

「いかにも待ってます」よりも、涼しい顔で「いつでもいいわよ」とスマートで余裕のある女性でいたいのだ。

つい最近、職場の先輩がついに長年お付き合いしている彼女にプロポーズをした。

先輩は今年30歳で、彼女と同棲していながらも、急かされることをめんどくさそうにずっと先延ばしにしていたので、正直わたしにとってはビックニュースだった。

現場に向かうトラックの中、プロポーズの決め手を聞くと、「長い間待たせちゃったからそろそろちゃんとしなきゃ、と思ってね。家で、タイミングよくBGMかかるように設定して、思いっきり泣かせる気でサプライズしたよ。めちゃ号泣してたもんね(笑)」

「なにその最高なサプライズ!!よかった…本当におめでとうございます!!自分のことのように嬉しい、泣きます…」

「なんで柚希さんが泣くの(笑)」

「先輩、家の事で苦労してるし、優しすぎてしんどいこともたくさん我慢してるんだろうなあって、心配してたんですよ。だから、嬉しいんです」。

すると先輩は俯いて幸せそうに微笑んだ。

「同棲してるし、今までと何も変わらないけどね。柚希さんもそのうち彼氏、プロポーズしてくれるでしょ」。

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わたしの不安とは裏腹に、先輩の声のトーンは真っ直ぐで自信に満ち溢れていた。

「…どうでしょう。彼からするとプレッシャーにもなるだろうし、なかなかそういう話できなくて。時期が来てもなかったら、私からしてもいいと思って最初から付き合ってるんですけどね。」

「いや、してくれるよ」

いつも彼氏の面白エピソードを爆笑しながら聞いてくれる先輩が、あまりにも真っ直ぐに言うので根拠もなく、スっと心に入ってきて彼からのプロポーズを想像すると顔が熱くなって何も言えなくなってしまった。

そうなる自分に驚いたし、 先輩は隣で顔が赤いことを笑っている。

わたしは自分が思うよりずっと、彼のことが好きなんだなと確信した瞬間だった。

なぜそこまでプロポーズを待っているのか 。それは少女漫画みたいな「ステキ!」「憧れの結婚!」なんて、脳内お花畑というわけではない。むしろ「やっとたどり着いた!でも下りがまだこれからある…」脳内登山のほうがしっくりきていた。

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これから、幸せ以上の辛いことだってあるのも重々承知だ。それを一緒に乗り越えていける、乗り越えて行きたい相手だ と思えた時、「この人と結婚したい」と思うのだろう。

そしてその人からのプロポーズというのは、同じ気持ちだと確信ができるから、確信したいから待っていたいのだと思う。

わたしは波乱万丈な人生を25年の中で多く経験してきた。

そんな人生を歩いてきたからこそ思うのは

「自分の家族が欲しい」ということ。

わたしが母親になったら、親にして貰えなかったこと全部を子供にしたい。とずっと秘めている。

プロポーズを待つ裏側には、こういったかなり現実的な事情があったりする。

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いつかその日が来るまでは、 いつプロポーズされても、幸せな家庭を築ける女性になれるようにひっそりと自分磨きをしていくつもりだ。

いつ、声がかかってもいいように。そのいつかの日を、ほんのり気長に待っている。