聖夜のキス。
今にも雪が降りそうなくらい暗さを帯びた冬の空に、光るイルミネーション。
そんな夢を何度も見てきた私にとって、クリスマスは心がざわめくときである。
クリスマスイブに終業式を迎えると冬休みに突入していた高校時代はクリスマスにうんざりしていたけれど、今ではとても懐かしく思う。
大掃除の時間はクラス中が、冬休みのイベントでざわめき始める。気になっているあの子にクリスマスの予定を聞くなんて、それだけで好きだと告白しているようなもので胸がぎゅっと締め付けられる。
恋人と過ごすクリスマス、いつものように部活で詰まったクリスマス、ひっそり自由に過ごすクリスマスにも、その人の個性があふれていて、ざわめいた教室にいるだけで私は夢が広がりそうだった。
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特に高3のクリスマスは濃くて、甘かった。もちろん自分ではなく教室にいるクラスメイトの話である。
隣のクラスに彼氏がいる子がいつも一緒に登下校をしている様子に出くわすだけで、誰にも邪魔されたくないくらい憧れに浸っていたくなり、いつのまにか私のなかで恋愛ドラマが再生されていくのだ。
自分にも「クリスマスだけでも十分だから恋の神様が現れないだろうか」と妄想を膨らませていると、普段は全くカッコイイとは思わないクラスの隅っこにいるゲームオタクの男子でさえ輝いて見えた。
ここまで考えると、クリスマスには奇跡が起こる魔法が仕掛けられているのかもしれない。寒くて人の温もりが恋しい冬にしか味わえない甘い恋があるとすれば、ロマンチックの塊が降り注ぐ空に運命の恋を祈りたくなるといってもおかしくなくて、妄想で繰り広げられるラブストーリーが現実で巻き起こる可能性も高い。
恋や友情といった誰もが身近に抱えている青春に大きな変化が起きたとしても、その波に乗っていきたいと感じる冬は、寒いようで気づけば心の真ん中から全身までがじんわりと温められていくのだろう。
その独特な体感を得られるのがクリスマスであって、切なさのなかにロマンチックな光景を描いた冬は最強で最高なのだ。
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そしてやはりクリスマスといえば、夢の世界が広がるキラキラに装飾されたケーキも印象的である。1か月前くらいからケーキの広告を見るだけで、毎年冬の訪れを感じられるのだ。美味しいだけじゃなくて、可愛い、今年も生きていてよかったとまで思わせるクリスマスのケーキには、やはり夢が詰まっている。
そんなケーキに自分だけの夢を乗せながら、甘くて優しい時間を過ごすことは、クリスマスで一1番楽しみにしていることだ。それぞれが大切な人達とケーキを囲んで聖夜を祝うクリスマスに、毎年どんな物語が待ち受けているのだろうかと想像するだけで私は心が満たされていくのを感じる。
クリスマスイブに生放送される特番の音楽番組を見て、好きな音楽に触れて、食べたいものを食べて寝る。恋愛ドラマの登場人物としての視点からだと、ヒロインではなく脇役の世界にいるようで、クスッと笑ってしまいそうだ。
そんな何気ない平和なクリスマスが、気取らずに冬に溶け込んでいくようで私はとても好きだ。もちろん一生忘れられない恋のプロローグを刻む冬を夢見続けていることに変わりはない。
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これから何十年、何百年先もクリスマスの魔法が解けることはないと信じたいくらい、冬の吹雪に、あふれ出てくる夢を託したい。いつも特別ロマンチックなことを求めていないようで、恋しくなる時も沢山ある。
いつかそんなドラマのワンシーンのような空間に自分がいるクリスマスが訪れることを、今年も寒さのなかに人々の美しい願いがあふれている冬の空に祈ってみようと思う。解けない魔法を温めながら。