直感、と言い切れるほど歯切れのいいものではないけれど。この一年、毎日昼食のパンを買いに寄っているコンビニの店員さんに惹かれていたりする。ビビッときた、なんて表現はもう古いのかもしれないが、そんな感じの。

いまの職場に勤めて早数年。私は毎日自宅と最寄駅の間にあるコンビニで昼食用のパンを買っている。職場には食堂のような場所もあるが、安月給の身としては惨めに比較的安価なパンを細々と買うしかないのだ。

私が立ち寄るコンビニのバイトは学生が多いのか入れ替わりが激しい。常連として会話するようになったベテランの女性店員さん以外はいつの間にか居なくなっている。覚束ない手つきの学生らしき新人店員さんから徐々に成長を感じてきたかと思えば、ある日突然ぱったりと店で姿を見かけなくなったりもする。これが意外と寂しいのだ。

そんななかで去年から新顔として現れた彼はイレギュラーな存在であった。

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このご時世、ソウイウ配慮なのか名札を付けていないために名前はわからない。仮にAくんとしておく。A『くん』なのはなんとなく同年代っぽかったから。A『さん』というほど年上っぽくはない。たぶん同学年か年下。

そしてその店員Aくん、べらぼうに接客が素晴らしい。ポイントカードのバーコードをハンディでなぞるときには手を添える、箸を入れる際には一緒におしぼりも入れてくれる、挨拶が丁寧。しかも声が良い。

どれも些細なことだが、これをできる人間はなかなか少ない。ベテラン以外のバイト店員さんは接客対応がなんとも微妙なのだ。挨拶は雑、箸を入れ忘れる、お釣りの小銭を揃えずにバラバラな状態でトレイに乗せて返してくる、等。

バイト学生(推定)だから仕方ないとはいえ、同じ接客業として働いている私からするとグヌゥ……と歯噛みしたいような複雑な心境になるのを誰かに理解してもらいたい。

そこに現れた一筋の光が店員Aくんだった。若いのに接客が素晴らしい。これはもう注目せずにはいられなかった。

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だから冒頭で惹かれる、と表現しつつ実際は『推し』のような存在なのだが、そんなこんなで彼に興味を持って(推し始めて)一年が経つ。本当に辞めないでほしい。このまま正社員みたいな位置づけになってずっと続けていてほしい。頼む。割と私の仕事疲れのオアシスになってるよ、あなた。でも結構な確率で遭遇するレベルで出勤してるっぽいから若干心配だよ。

……そしてヘビーユーザーの私は休日を除いてほぼ毎日コンビニへ行くので、週3〜4くらいの頻度で店員Aくんと顔を合わせている。

最近では「今週は連勤ですか?」「はい、思ったより大変です」などと穏やかな会話をレジの会計中にて交わすまでになった。そうした瞬間に、ちょっと、ほんのちょっと、サイズにすればミクロンレベルで「好きだなあ……」と邪な『好き』が生まれたりもする。

信憑性のない己の直感が、『好き』のベクトルをlikeからloveに切り替えかけている気配。あーあ、どうしたものか。こんな不毛なことはない。あーあ。

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 ——閑話休題。

突然ながら私の直近元彼二人の名前にはそれぞれ「陸」と「空」の文字が入っている。そこで、店員Aくんの名前である。万一、彼の名前に「海」の文字が入っていたらどうしよう。いや別にどうもしないのだが。

ただなんとなく、こう、良くない流れがきているので。こんなピンポイントに陸・空が揃ってるならそれもうリーチじゃん、と友人数名にも笑われているので。願わくば店員Aくんの名前に「海」が入っていませんように。名前を訊く予定も勇気もさらさらないというのに、なんて滑稽な話だろう。

万が一、億が一。海人(うみんちゅ)くんとかだったらいっそ笑って結婚したい。