「ほら、今『介護脱毛』って言葉があるじゃない?まだ早いかしら、なんて思ったんだけど、通える今のうちからやっておこうかと思って」

エステティシャンとして働いていた頃、多くの脱毛相談をお客様から受けていた。年齢は10代〜50代と幅広く、私の母親世代にあたる女性たちは皆、「介護脱毛」というワードを口にしていた。

介護脱毛とは、いずれ自分が介護される側になった際、下の世話がスムーズになるよう、デリケートゾーンの脱毛をあらかじめしておくというものだ。介護をする側もされる側も、きっと一番抵抗があるのは下の世話だろう。高齢化社会が叫ばれる今日の日本において、脱毛業界にまでその影響が出ているのか、と当時の私は勉強しながら思っていた。

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介護脱毛に興味を持ち、カウンセリングに来たお客様へのご案内を済ませ、いざ施術に入っていく。脱毛の施術としては他の方と同様なのだが、やはりそれぞれ「脱毛に対する気持ち」というものが異なるのだ。

若い世代は「生理の時に蒸れるのが嫌」「彼氏にいつ見られてもいいように」という話をよく耳にしたが、介護脱毛に関しては「衛生面を考えて」という部分は同じであっても、「相手に見せる」という意味では全く真逆なのだ。

いつ訪れるかわからない介護の始まり。その時に向けて準備をしなくてはならないという現実に、少し切なさを感じる自分もいた。施術を進めながらふと思う。もし、私の家族や親戚が介護を必要とする立場になったら、私はしっかり行うことができるのだろうか、と。

以前、祖母が末期癌を宣告され、少しの間自宅療養していたことがあった。その時は身体を洗ってあげたり、食事を作るなどしていたが、祖母にはトイレに行く体力がまだあったため、下の世話まで私は行っていなかったのだ。もしそのタイミングがあったとしても、看護師である叔母がその都度対応していた。私自身、介護の全てを対応したことがまだないのだ。

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介護に関しては、親や親戚に限った話ではない。もし、私がなんらかの事故で身体が不自由になった場合、若くても介護が必要な立場になる可能性だってある。そうなった時、身内に世話をされる気持ちというのは一体どんなものなのだろう。他人である病院関係者にすら、恥ずかしさと申し訳なさで抵抗してしまいそうだ。

 エステティシャンを通して、たくさんの脱毛を経験してきた。その中で沢山の方の身体に触れ、実際に見ることで「他人の身体を見ることへの抵抗感」といものはだいぶくなったが、それと介護は別の話である。

施術中も楽しそうに子どもや旦那の話をするお客様を見ながら、「あぁ、こんなに元気な方でも、いつか介護される側になる日がくるかもしれないのか」なんてことを思うと、胸の辺りがギュッと苦しくなるのを感じた。

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そんな日が来るか来ないかはわからない。当時の私に出来たのは「お客様のご希望通り、綺麗に脱毛すること」であり、介護から逃れる為の策を考えるというものではなかったのだ。だからこそ、私に出来る精一杯を施術でお客様にご提供した。いつ、私にもあなたにも訪れるかわからない「その時」に向けて、私は今でも心のどこかに「介護」という言葉を抱えて暮らしている。