私の想いに、言葉を返して貰ったのは初めてだった。

書いたエッセイを、恐る恐るネットの海に初めて浮かべてみたのは3年前。定期的に放流するようになって早数ヶ月。やっと、誰かの目に触れていると、ちゃんと読んでくれている人がいると認識できた。

それは2023年11月1日。記念日として覚えやすい優秀な日付。当サイト、かがみよかがみ編集部のオンライン公開ミーティングが行われた日だった。

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公開ミーティングを開催するという告知を見て、そして申し込んだのはちょうど1週間前。こういったイベントに参加したことがなかった私は、実はちょっとだけ尻込みをして、悩んで、アーカイブを残しておいてくれないかな…なんて思った。

優柔不断でうじうじと考え込んでしまう癖が、未だに抜けない私。

それでも結局、告知を見つけたその日のうちに参加希望の連絡を送ることが出来たのは「エッセイの講評」がどうしても聞きたかったから。9月、10月に掲載されたエッセイの中から30本程抜粋してコメントをするというその企画は、足踏みをする私の気持ちをぽん、と押してくれた。

もしかしたら、私の書いたものが紹介されるかもしれない!

書くことが好きだから書いているけれど、誰かの目に止まることを期待していないと言えば嘘になる。 叶うことならいつか、誰かに見つけてもらいたい。面白かった、共感した、世界が変わったなんて、純度100%の本音じゃなくてもいいからって言われてみたい。

湧き上がった淡い期待。性格上それだけを抱きしめられてはいられず、紹介されなかったときに傷つかないように言い訳を並べながら、当日までの1週間を過ごした。たくさんのエッセイが投稿されてるし、私の書いたものはランキング上位になったこともないし、例え紹介されなくても他の作品の講評を聞くだけで勉強になるよ、と。

だから公開ミーティングの中盤、見覚えのある画像が表示されて私の名前が呼ばれたとき、比喩ではなく身体が跳び上がった。

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ここ最近で確実に1番大きい心拍。浮遊感、そして一瞬の息苦しさ。心臓が無重力空間にワープしたような気がする。酸素が薄い。けれど初めて、私の心は息をすることができたと喜んでいる。やっと誰かに見つけて貰えて。

自然と緩んでしまう口元が恥ずかしくて、誰が見ているわけでもないのに、唇をぺろりとひと舐めして誤魔化した。すました顔を取り繕って、私はスクリーンショットを撮る。今画面に表示されている情報を、読んで理解する自信はなかった。後回しに出来るものは後回しにして、脳みそのデータ容量を空ける。

そしたら少しづつ動き出した頭が、エッセイの講評を始める前に編集長が言っていた言葉を思い出した。

「紹介したエッセイを書いた方がこのミーティング聞いてたら”このエッセイ書いたの私だよ〜”とか、ぜひコメントしてください!」

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私は画面下にある吹き出しマークを急いでタップして、入力画面を立ち上げた。楽しみにしていた公開ミーティングで、本当に自分のエッセイを取り上げてもらえるだなんて。ちゃんと読んでくれている人がいただなんて。夢みたいだ。

”紹介して下さってありがとうございます”

そこまで打って湧きあがった感情に気づいた。キーボードをなぞる、右手の人差し指が震える。これは想定外だった。打ち込んだ文字を全部消す。スマホを放り出す。けどそれはほんの数秒で、すぐにまたスマホを手に取った。

“このエッセイを書いた者です”

また先程と同じ文字列を打つ。打ち込んで、全部消す。先程とは違う動悸がする。

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私は結局、メッセージを送ることが出来なかった。送信ボタンを押す決心がつく前に、次の話題に移り変わって、その話題もまた過ぎて、どんどんと私のエッセイの話が過去になるのを聞いていた。

 恥ずかしかったのだ。このエッセイを書いたのが私だと名乗り出ることが。
私は自分の書いた文章が大好きなのに。今まで適当な気持ちで書き上げたことなんて一度もないのに。けれど、それとこれとは話が別だったみたい。

他の作品とともに、誰かの前で肯定される自信も、愛される自信も、まだ備わっていなかったのだ。「見てくれている人がいる」このことを実感して初めて、新しい私が顔を覗かせた。

その私は納得出来ていなかったと主張する。

「私もそういうものがきっと書けるようになるよ」私には私にしか書けない言葉がまだあるはずだと、もっとやれるはずだと訴えている。面白くて妬んだ他の人のエッセイのようなものが書けるようになると、自信家の私は叫ぶ。

まだまだやれる。今の自分の100%だとしても、明日の自分の100%ではないから。だから先月書いたエッセイも、紹介されたエッセイも納得できないと。

ずっと待っていた、自分の言葉が誰かに読んでもらえているという実感。それを得たと同時に、私はスタートラインに立っていた。2023年11月1日、もっと頑張りたいと思えた記念すべき日。