入社して1年経つ頃の2年目になる直前、春一番が吹く頃。
私は緊張の渦の中にいた。
元々、人前で発言するのが苦手な人間で八方美人タイプな私である。
課内会議で一言発するだけだったが、緊張で声が震えた。
◎ ◎
その日は、課内全社員約20名が一同に集まり、1年間の売り上げ実績や今後1年の見通しについての会議があった。
私は参加するのは初めてで、聞いているだけの立場である。緊張も何もない、はずであった。
新入社員なんて呑気なものだなと考え、ふーんと資料を眺めているだけのつもりが、課の問題点の話しになった瞬間、私は緊張で身体がこわばった。
課の問題点、それは過重労働についてであった。その当時、うちの課は、部内で1番残業が多かった。
私も漏れなく該当者で、再三お達しはきていた。
それでも納期に追われる作業があり、減らそうにも減らせなかった。
そこに関して入社してからずっと憤りを感じていて、私の指導員と共に上長へ何度も何度も進言していた。
それでも変わらないやり方や作業量に、私は悲鳴を上げていたが指導員に守られていた事で何とか保たれていた。
しかし、その指導員がこの会議の2週間ほど前に過労で倒れてしまったのだ。
だからどうしても私は、過重労働についての議題をなし崩しで終わらせたくなかった。
ただ、1番ど新人の私がどこでどう発言したら良いか判断が難しく手に汗をかいて様子伺いをしていた。
◎ ◎
上長から、「次の年度はどう対策しますか?」と言われた私の上司が「残業を月40時間に減らします」と発言した。
その瞬間、私の怒りは沸点に達し、考えるより先に口走っていた。
「そもそも残業ありきで考えているのがおかしいと思います。仕事は、1人1日8時間です。売り上げ目標を今年度より引き上げたら、残業時間が減るどころか増えるのは当たり前だと思います」と。
やってしまったと思ったけど、後の祭りだ。泣きながら、声を震わしながら発言したのだ。
元々、緊張しいで自分の意見を言うのが苦手な私は、本音を話す時に涙がこぼれてしまう。
だから何か言いたい事がある時は、無になって話す癖がある。
でもこの時は、指導員が倒れた悲しさと今のままでは私も倒れるという思いが溢れすぎて、涙を止めることができなかった。
そして最悪にも女性社員は私だけだ。そんな中で涙を流して発言するなど卑怯なのは重々承知だった。
それでも指導員が過労で倒れても、課内の過労が当たり前な事を誰も重く受け止めていない状況が悔しかった。
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今まで大人しかったン十年ぶりの女性社員かつ新入社員が涙を流しながら発言する会議は、シーンっとして重苦しかった。
その後、別のチームの上司がフォローしてくれて、その場は収まった。
会議を終えて会議室を飛び出した私がぶつかった相手は、部長クラスの人だった。
幸か不幸か泣いているところを見られ、うちの課はどうなっているんだという事になり、上司たちは大目玉をくらったそうだ。
その後、私も結局過労で倒れ、異動した。
異動になったのも、ぶつかった部長クラスの人の配慮があってのことだった。
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結局、ドラマじゃあるまいし、私の発言で大きく変わったことは無かった。
だた同僚たちが気にかけてくれるようになり、私の周りの人間環境は良くなった。
そして私自身も自分の意見を言えるようになった。もう泣かない。震えるほどの勇気もいらない。
部長クラスの人たちに、残業や業務量過多に関して提言できるくらい口達者になってしまった。
上長たちから見たら面倒くさい社員かもしれないけれど、誰も声をあげないくらいなら私が声をあげて職場環境を変えたい。