女性は家事を完璧にこなさなければいけないという古めかしい固定概念が頭のどこかにあった私。

大学時代に寮生活をしていたため、寮内の当番でキッチン掃除や洗濯槽掃除など、「花嫁修行」的な感覚でそういった当番掃除を前のめりにこなしていた。

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生ゴミが溜まった水切りネットを縛って捨てたり、燃えるゴミを夜のうちにごみ収集スペースに出しに行ったり。

これは実家に住んでいた頃、母もしていたのを見ていたのでなんとなく想像がついた。

洗濯機の中の糸くずネットのゴミをかき出してぬるま湯で洗ったり、月に一回は洗濯槽洗剤を洗濯槽にタラリと流してスイッチを押して放置したり......。

これに関しては母がやっているところを見たことがなく、大学生だった私は帰省したタイミングで母に尋ねたことがある。

「お母さんさ〜?洗濯槽掃除とかしよーと?」

「......えっ?」

“洗濯槽掃除”という言葉を初めて聞いた少女みたいな表情をした母にイラッとしてしまい、「ホラ!!ここ!糸くず溜まっとるけん掃除せないかんとよ!」とまくし立てて偉そうなことを言ったことがある。

しかし、少女のような母は「だって〜......洗濯機買い替えたらいいもん......」と謎の駄々をこねたので、大学生だった私は勝手に糸くずネットを掃除して学生寮へと帰ったのだった。

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あの時、母にイラッとしたのには訳がある。

幼稚園の時に二階建ての一軒家に住んでいる友達のお家に妹とお呼ばれし、幼稚園児の私は1階のリビングで楽しく遊んでいた。

その時に友達のお母さんが雑巾を持って2階に行ったのがどうしても気になった私は、その友達のお母さんについて行ったのだ。

すると、階段を一段一段雑巾で拭き掃除をし始めた友達のお母さん。

当時の私にとって、雑巾での拭き掃除は幼稚園の掃除の時間にしか使わないものという認識だった。

一方、うちの母が掃除をする時は、掃除機とクイックルワイパーを使っているところしか見たことがなかったので、幼いながら「おうちでもぞうきんをつかうんだ」とカルチャーショックを受けたのだった。

そんな狐につままれたような表情をする私に、友達のお母さんは「リサちゃんのママもお掃除する時に雑巾使うやろ?」と笑顔で尋ねてきた。

私は「となりのトトロ」に出てくるメイちゃんくらい固唾を飲んで「ううん」と首を横に振ったのを覚えている。

あの時「もしかして、うちのお母さんって女性なのに掃除の仕方をあんまり知らないのかも」と幼心にショックを覚えたのだ。

それが時を経て大学生になり、洗濯槽掃除の一件が幼少期のショックを思い出させたためにイラッとした訳だ。

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現在の母はというと、持病のリウマチで手足が思うように動かない日も多く、掃除をするのもままならない。

お風呂掃除はこまめにしていると自己申告する母だが、お風呂場のタイルにしつこい黒カビが発生していて気になった私が指摘した際、母は出張サービスの清掃業者に風呂掃除を依頼したことがある。

その時、家事なんか全部しなくても娘に掃除してもらったり、その道のプロにお金を支払ってやってもらって、そこまで気負わなくてもいいんだなぁということにやっと気付いた。

それと同時に、少し重圧に感じていた家事を自分の手でキチンとこなさなければいけないという義務感から解放された気がした。

以前はエアコン掃除も自分でしていたが、喘息持ちで低身長の上に、ドラッグストアで売ってるハタキやスプレーでの掃除はやはり素人には限界がある。

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そこでこの夏はエアコン掃除のために清掃業者を頼んだのだが、やはりプロの技。

エアコンの効きも前よりよくなった気がするし、なんて言ったって喘息を引き起こしたり、背が届かずに踏み台に登ってつま先立ちをして危険と隣り合わせにならなくてもよくなった。

家事との距離感を教えてくれた母に感謝を込めて掃除をするべく、福岡に帰省した時に洗濯槽の糸くずネットを開けてみたのだが......。

あとはご想像にお任せしよう。