週刊誌を読んでいたら、「待機老人の多い都道府県10」というのが載っていて、私の住む県は2位だった。「待機老人」とは、特別養護老人ホームに入りたくてもすぐに入れない人のことで、わが祖母も例に漏れない。

わが家は、特養以外の有料施設に入れるお金の余裕はないので、空くまでは在宅介護とデイサービス、ショートステイを組み合わせて乗り切ることになった。ちなみにわが家は両親を中心に、孫の私も介護を手伝っている。

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祖母は現在要介護4で、認知症もある。初期の頃は、家族も何とか進行を防ごうと、効くと言われる食べ物は片っ端から試した。例えばココナッツオイル。ソフトクリームにかけるとロウのように固まってさすがに祖母は閉口した。今から思えば笑い話だが、藁にもすがる思いだった。祖母は幻視などの症状が出るレビー小体型認知症で、現在は薬を飲んで進行を抑えている。もちろん薬も大事だが、それより大切なのは、介護する者が祖母の行動の意味を理解し、受け入れていくことだと、お医者さんは言う。

例えば、祖母は、近所のAさんがいきなり家に入ってきて物を盗っていった、とパニックを起こすことがある。その場合、過去にAさんとの間に何か軋轢があり、その辛い思い出が、そのような幻視を見させていると考えてよいようだ。だから頭ごなしに叱ったり、間違いを指摘して正しいことを教え込もうとしてはいけない。ただ、祖母のストーリーにこちらが入っていって話を聞いてあげることだ。

そして、祖母が被害妄想からどんなひどいことを言おうとも、それは祖母の人格がさせていることではなく、病気がさせていることだ。「ボケ」という言い方もいい加減止めた方がいい。きちんと「認知症」という病名で呼ぶべきだ。

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施設に預かってもらえる時間はよい。大変なのは在宅の時間である。お風呂に入れるのも一苦労で、お湯の中が気持ちよすぎて失禁したのはまだ仕方ないとして、うんちを漏らしたときにはイライラさせられた。介護中に虐待することはあってはならないことだが、その気持ちが少し分かった気がした。

大切なのは家族で全部抱え込まず、割り切ってプロに頼むことだ。今は訪問入浴サービスがある。素人がやると危険なことも多いが、プロが入浴介護している際に事故になったというのは全国的に稀だそうだ。これは愛情ではなく技術の問題である。家族だからできると信じていることは、家族だからできない。これは下の世話も同様である。祖母はきれい好きで上品な女性だったので、その祖母が紙おむつをしていることがショックなのである。血縁があるからこそ、かえってできない。プロはそれが仕事だから、事務的に淡々と処理してくれる。例えば私の母など、一昔前の人は、下の世話を赤の他人にお願いするなんて恥だ、という感覚を持っているが、超高齢化で誰もが介護を受けるかもしれない時代、そうした考えは捨てた方がいい。

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肉体的な介護はプロにお任せするとして、家族ができるのは、その場を共有することだと、ケアマネージャーさんが言っていた。一緒に同じものを食べておいしいねと言う。同じテレビを見て笑いあう。祖母は両手を持って軽く揺すってあげるだけでも、笑顔を見せる。私たちには何が面白いのか分からないが、祖母はこの遊びがお気に入りだ。こういうことは逆に、家族にしかできない。

主に介護をしている両親を見ていて思うのは、とにかく介護は大勢の人でシェアした方がいいということ。今、介護される人よりも、介護する人のストレスに焦点を当てた本や講演会が多いことからも、いかに介護に悩んでいる人が多いかを物語っている。

人に頼ることに罪悪感を持たなくていいし、施設に預けて自分も気分転換することで、また、祖母に対して優しく接することもできるからだ。