朝、目を覚ますとお腹の音を聞く。「そうだ、お腹が空いているのだ」とわかると、「新しい一日がまた始まっていくのだ」と深呼吸するように、布団から起き上がる。

高校生の頃、合宿や遠足の朝はいつもと違って浮き足立っていた。そんなときの朝ごはんは、いつもより色んな考え事をしているから、濃密な味だと感じていた。特に高一の頃、二泊三日の新入生合宿では友達やクラスメイトと広い食堂で朝ごはんを食べたことは、とても不思議な感じがした。一人っ子の私にとって、大勢でワイワイと朝ごはんを食べることは非日常的で、がつがつ白米を食べているクラスメイトの姿を見ると微笑ましくなった。

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「すごい寝癖や!」。朝から元気な隣のクラスの女子たちは、青春の一ページに刻まれていくような盛り上がりを見せていた。新入生合宿は入学してから約二週間後に行われた。私が所属していたスポーツコースは生徒数が多く、まだ顔と名前を覚えきれていない状況での合宿だったけれど、朝ごはんの時間で素顔を見ることができたような気がしたのだ。

「眠い、眠い」。向かい側にいるハツラツとした女子があくびをしながら、ぼやいていた。正直あまり美味しいとはいえない合宿所のご飯に疲弊しそうになっていたのは、私だけではないのかもしれないと少しほっとした。

「今から養殖の魚見に行くんやったっけ?」
「そうそう、だから昼ごはんは遅くなるみたいよ」

お世辞にも美味しいとはいえない朝ごはんを何とか食べ終えた私は厨房にトレイを返しに行って、まえにいた中高一貫の頃からの友達と眠たそうに話していた。厨房を通り過ぎると、私たちはコソコソ話をしはじめる。

「ここのご飯美味しくないから、早く帰りたいわ」
「そうやね。みんな部屋でこそっと持ち込んだお菓子食べているわ」

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一クラスに十人だけ女子がいて、出席番号順に部屋のメンバーが決められていた。私と同じ部屋の子たちも、持ち込み禁止のお菓子を持ち寄って、お風呂に入り終えるとその夜食をつまみだした。

「明日、朝ごはんの当番やからもう寝やなあ」

朝は六時半に食堂に集合しなければいけなかったので、それまでに当番の子たちは配膳するという任務があった。

「朝ごはん、美味しないからずっと夜がいいわ」

まだ入学したばかりで、腹を割って話せることは少なかったけれど、部屋では朝ごはんの時間について素に近い様子で話していた。

「でもD組の中町くん、かっこいいよねえ」

「えっ、それめっちゃわかる!」

D組の中町くんは運動神経抜群で、背が高くてルックスも良いモテそうな男の子だった。

「昨日、たまたま向かいの席にいて、ご飯食べているときもかっこよかった」

イケメンを拝みながら食べる朝ごはんは、とても美味しく感じるということは私も共感できた。普段だったら気になっている子と同じ空間で朝ごはんを食べるチャンスはないけれど、合宿だから非日常を体感できるのだと思うと、美味しくないご飯が愛おしくなっていった。そのあとも、学校のことや将来の夢の話が止まらなかった。明日の朝ごはんは何だろうと思いながら、こんなにも話が広がっていくことに青春を感じずにはいられなかった。

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そして翌日、六時には食堂に集合できるように部屋の皆で急いで身支度をした。先生に指示された約束の時間通りに集合できた私たちは、合宿所の広場で体操をしてから朝ごはんをいただいた。

「中町くん、今日は眠たそうや」

昨日の夜、話題にでていたクールな彼は珍しく疲れきった顔をしていた。

「そろそろ家に帰りたいんかな?」

そのとき、彼がこちらに目を向けてぺこりと会釈した。

「ここ良いかな?」

中町くんが私といた女子に話しかけて、向かいの席に座って朝ごはんを食べる様子だった。ちょっぴり甘酸っぱい恋が、不慣れな朝ごはんとともに幕を開けた。