「俺、朝は食べない派なんだよね」

今まで好きになった男たちは、みんな同じことを言っていた。食べない理由は、「ギリギリまで寝ていて時間が無いから」だったり、「起きてすぐは食欲がないから」だったり、言っていることは人それぞれ違っていたが、「朝は食べない」という同じ結論に行き着いていた。料理も食べることも好きな私にとって、それは結構ショックなことと言ってもいい。

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彼より少し早く起きて朝食の支度をする。部屋の暖かさといい匂いにつられて彼が起床。起きた彼は、テーブルに並べられた朝食に嬉しそうな笑みを向け、2人一緒に「いただきます」と声を揃えて食べ始める。なんていうのが、私の憧れであったからだ(かなり美化された理想の朝だということは重々承知している。我ながら痛い妄想だ)。

お泊まりデートの楽しみの一つと言ってもいい。前日に「明日の朝何食べたい?」と彼に聞き、彼のオーダーに沿ったものを作る。

そうなると、買い物の段階から楽しさが倍増するのだ。夜のメニューだけではなく、明朝のことも考え支度をする。彼の喜ぶ顔を2回も楽しめるわけだ。そんなワクワク感を心に抱いていた。しかし、この28年間の人生において、朝を食べない派の男たちばかりだった為、まだその幸せを手にしたことはないのが現状だ。そうなると、自分で自分を喜ばせるしか手がないわけだ。正直な話、私も毎日朝ごはんを食べる派ではないが、朝ごはんを作ること、食べることを楽しみにしているというのも事実だ。仕事がある日は厳しいが、休みの日なら朝ごはん作りにたっぷり時間を使える。限られた時間で美味しいものを作る、というのが朝ごはん作りの腕の見せ所かもしれないが、私の場合はゆっくりと朝の時間を優雅に楽しみながら、休日をスタートさせるのが目的なのであまり気にしていない。

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自分で作る朝ごはんはパンの日もあれば米の日もある。どちらかと言うと和食派ではあるが、「パン+卵+ソーセージ+サラダ」という典型的な朝ごはんも好きな為、時々パンも取り入れているのだ。朝ごはん作りに取り掛かるとき、自然と眠気はどこかに飛んでしまっている。それが朝ごはん作りに対する楽しみからきているのか、やる気からきているのか、はたまたその両方なのか、いずれにせよ、キッチンに立つ頃には「朝ごはんウキウキモード」のパラメーターは全開なのだ。

具材を切る、お湯を沸かす、その間に炒める。さまざまな工程を同時進行する中で、起きて数十分とは思えないほど、身体がテキパキと動いていく。食材を切る音、感触、匂い、全てが私の中に入り、食べる前から私を満たしてくれるのを感じる。それだけで更に気持ちは高まり、朝ごはんを食べることへの楽しみが膨らんでいくのだ。

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出来上がった料理をテーブルに並べ、写真を撮る(誰に見せるわけでもないが、自炊メニューをアルバムとして保存し、後々見返して料理の腕が上がっていくことを実感するのが私の楽しみなのだ)。

手を合わせ、1人で「いただきます」と言って食べ始める。「恋人との理想の朝ごはん」まではまだまだ遠く、そんな日が来るかはまだわからないが、いつかこの美味しさと楽しみを分け合える日が来たらいいな、なんてことを思いながら、妄想を膨らませて1日をスタートさせるのだった。