運命の出会い、という言葉がある。「私にはあなたしかいない!」という強く惹かれるような気持ちを人様に対して抱いた事は残念ながらまだない。恋愛経験も乏しく、学生時代に周囲の友人たちがクリスマスやバレンタインなどのイベントで胸をときめかせたり思い悩んだりしている横でケーキだチョコレートだ、と食べ物に浮かれている典型的な花より団子な十代を過ごしたせいなのだろうか。異性に対してだけでなく同性に対しても、「この人と仲良くなれそうな気がするな」といったような直感が働いたことはない。

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逆に、「こんな一面があるんだ。親近感があるなぁ」と関わり合っていく中で親しくなるというパターンがほとんど。第六感というものが人より鈍いのかと悩んでしまうこともあるが、そんな私でもなかなか外さないのが買い物の際に感じる直感だ。ひと目見た瞬間に「これだ!」と思うあの強い感覚こそ私の第六感なんだろうか。そう思って家に迎え入れたもので「お店で感じたのと違う気がする……」という風に気持ちが変わってしまったものは少ないし、どうしてだか直感で決めた買い物の方が、あれこれと悩んで購入を決めたものよりも失敗が少ない。よく一緒に買い物に行く友人に「男前な買い方をするね」と思い切りの良さを褒められた事もあるのだが、この直感がいつどこで働いてくれるかが分からないというのが少々困りもので、ああでもないこうでもないと繰り返し悩んでしまうことも少なくない。

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最近気が付いたのだが、ことファッション系の買い物となると私の中の審美眼は途端に曇ってしまう。どちらの服の形がよりスタイルが良く見えて、顔色が映えるのは何色の服なのか、そもそもどんな系統の服が自分に似合っているのか……チェックする項目を挙げ始めるとキリがなく、結局決められず何も買わずに帰ったのにどっと疲れた、という経験は数えきれないほどしてきた。思い切りのよい男前はなりを潜めて、いつもと同じような服装でまた街へ買い物に繰り出すのだ。

私の直感が働きやすいのが、食に関する事。例えば器やカトラリーなどを決める時は「これでいいかなぁ」という妥協ではなく、「絶対これにしよう!」という確固たる意志で選んでいる。自分の服や顔に載せるメイクの色、髪形などの事よりも一発で決められるのが食事関連という辺り、花より団子だった学生時代から何ら変わっていないようで少々気恥しいのだけれど、家に招いた人に食器を褒めてもらえることが多く、自分自身を褒めてもらえた訳ではないのに何故だか誇らしい気持ちになるのだ。

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「あなたが選ぶお菓子にはずれはないから」と取引先へのおもたせを選ぶ役割を任されたりしたこともあるのだが、自分ではない誰かの喜んでくれる表情を浮かべながら行う品定めは、いつもより審査基準がぐっと厳しくなる。その分買い物を終える頃には疲れ切ってしまっているのだけど、送った相手の反応が良いだけでそこにかけた労力全てが報われる気がする。

年齢を重ねるにつれ、「私はこの雰囲気のものが好きで、あの人の好みにはこんな傾向があるんだ」というのが少しずつ分かるようになってきて、自分への買い物も人への贈り物選びも楽しく感じられるようになってきた。この調子で私の中でまだ目覚めていないファッションへの直感も磨かれてくれたらと思っている。