忘れもしない、二〇一八年のクリスマスの数ヶ月前、私は世界一孤独を感じていたと思う。

彼氏いない歴=年齢の私は、十九歳になろうとしていた。周りがどんどん先に進んでいくような感覚。最近可愛くなったあの子にはどうやら彼氏ができたらしい、そんなことも自然と噂で耳に入ってきてしまうのだ。

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私は当時、大学一年生だった。憧れの先輩に振られ、何もかも自暴自棄に陥っていた。今思うと、完全に「周りにも彼氏がいるから私にもほしい」という他人との比較だった。

季節は待ってくれず、夏が来て、秋が来た。もうすぐクリスマスだというのに、私の気持ちは全然高揚しなかった。
「もうあの人にでも連絡してみようかな。ほら、新歓の時に優しくしてくれたサークルの先輩!」

たった一度だけ無料だという理由で食いついたフィギュアスケートサークルで一日だけ喋った先輩が、何となく愛想がよくて優しかったことは覚えている。だからって、もうあれから半年ほどたったころに急に連絡しようとしたり。とにかく、変な方向でどん欲だった。私は生き急いでいたのだと思う。

結局その先輩には彼女がいたというのがオチだった。やっぱり周りはもう幸せなのだ。もうパートナーがいるのだ。だからこその余裕に私は少しだけときめいた、それだけのことだ。

「好きなことをしていると、自然と人を引き寄せる」と聞いたことがあり、私は必死に何かを忘れようと自分の世界に没頭した。ピアノレンタルルームに行って難しい曲を練習してみたり、インカレのサークル体験に出会いを求めて行ってみたり。

冬が来ようが、イルミネーションだ紅葉だと世間が騒ごうが、みんなのインスタグラムが明らかに一人分ではない食事の端に一瞬男の人の服装がチラ見えしていようが、何も屈しないでいようと決意した。

その結果、なのかは分からない。本当に引き寄せられたかのように、今の彼に出会った。

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出会いも何もないと思い込んでいた塾バイトの、右斜め後ろの大学四年の先輩だった。あまり喋ったことはないけれど、授業の声が聞こえてくるたびに何となく一生懸命な人なんだと思ったことはある。コピー機を使う時に譲り合ったりしただけで、それ以外では全く関わりがなかったからだ。

ある日、バックヤードで帰りの支度をしていたら話しかけて来た。
「あの、僕の生徒が、ももりんさんの大学目指しているんですよ、彼に教えてあげたいんで、もしよかったら入試制度など詳しく僕に教えてくれませんか?」

時給外でそんなことをするなんてなんて一生懸命なんだと感動したが、私は「いつかまた時間があるときに……」と言いかけたとき、彼はすかさずスマホを取り出した。
「今、今すぐにラインを教えてくれませんか?」そう彼は言った。
行動が早い人、今を逃そうとしない人。私のいつかやるやる詐欺とは雲泥の差の人。そう思いながら、ふるふるで友達追加されていた。

彼の千と千尋のトプ画に、私は何となく安心した。「この人は、きっと普通の人だ。」普通の人なんて失礼な言い方だけど、純粋にそう思い、安心感があった。

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さっそくラインで入試制度などを話していると、案の定そんな話一瞬で終わった。気が付けば夜中の三時まで、お互い何が好きか、休みの日は何をしているのか。彼氏はいるのか彼女はいるのか。何もかもを話した。それくらい、安心感があった。

気が付けばクリスマスまであと一ヶ月の頃で、私はいつか静岡に行ってさわやかハンバーグを食べてみたいといった。

「いきなり静岡にはいけないけれど、まずはご飯にいかない?」彼は一晩でその誘いをくれた。一瞬も時を無駄にしない、素晴らしい行動力の持ち主だと察した私は、きっとクリスマスまでにデートを重ね、そしてクリスマスまでにはカップルになり、静岡に旅行しているだろうと想像した。そして、まったくその通りになった。

ほんの一か月前までは人生のどん底にいて真っ暗な部屋でピアノを弾いていた私が、一か月後には富士山を見ながらうれし泣きをしていた。こんな未来があったなんて、こんなにも気が合う人がいたなんて全く知らなかった。

「ももりんさんの、生徒に対する接し方に惚れたんだよね」そう言ってもらえたときには、ただ懸命に仕事をこなしていると誰かが見ていてくれるのだと知った。大丈夫、頑張っていればきっと誰かが見てくれて、引っ張っていってくれる。その理由が決して後付けであったとしても。