よく耳にする言葉がある。人生の中で運命の人は2人いる。1人目は愛を失う辛さを教えてくれる人。2人目は不変の愛を教えてくれる人。
今までこの言葉を真面目に考えたことなどなかったし、私にとってもっと遠い未来の話だと思っていた。だが、20数年しかまだ人生を過ごしていないのに、もしかしたら私はもう、1人目と出会ってしまったのかもしれない。
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彼のことを心から好きだということも、彼から十分すぎるほどの愛をもらっていたのかも、胸が痛むほど実感したのは、別れを告げられてからだった。2年足らずの交際期間と、半年間の曖昧な関係。別れも突然で、彼にはもう新しい彼女ができたらしい。
11月に入り、いよいよ寒さも厳しくなり、街中ではキラキラとした装飾やカップルが目立ち出すこの時期に、私は今まで感じたことのない虚無感を抱きながら、過去のことを思い出しながら、1人冷え切った手をコートのポケットに突っ込んで歩いていた。
彼と出会う前、1人で歩いていても、もうこんな時期かぁ、ぐらいしか思わなかったのに、思い出というものはたまに人を苦しめる。
彼に別れを告げられてから、私はしばらく何も喉に通らず、挙句の果てに拒食症を発症した。1週間足らずで、3~4kgも痩せた。ダイエットで、こんな結果が出たら、嬉しいだろうに。
私は元からプライドも高く、1番になれないと気が済まないたちだった。周りに弱音も涙も見せたくなかったのに、彼の前だと何でも話せた。彼と出会って、私は弱くなったのに、弱いままの状態で私の手を離すのだから、もうどうしようもない。案の定、私は捨て猫状態。
交際期間の終止符を打ったのは元はといえば、私なのに、仕事とプライベートの比重を上手くコントロール出来なかった私は、彼の優しさを素直に受け取れなかった。あの時、なんであんなことを言ってしまったのか、今更考えたって、虚しいだけなのだが。
自分の好きな食べ物もまともに食べられず、食べては吐きを繰り返していた時は、便座と向き合い、苦しさで涙を流しながら、彼が新しい彼女と共に、地獄にでも堕ちればいいと思った。
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でも、もうそれも考えることをやめた。今は、別に幸せになればいいと思っている。だが、彼女と付き合いながらも、私のことを少しでも思い出せばいい。話したことも、行った場所も、私の仕草や匂いや、表情を。2年半の思い出は、彼にしてもそんな簡単には記憶から消せないだろう。
まぁもう忘れているのなら、それでもいい。実際どうなのかなど、聞くこともないだろうし、もう会うこともないかもしれない。付き合っていた時は、あんなに近くにいた存在なのに、今では最も遠い存在だ。
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以前、親戚の通夜に参列した際、棺の中で穏やかな優しい顔をした、大叔父を眺めている私に対して、喪主である、大叔母は、
「ええ男やろ、私が出会った中で1番ええ男やった」
と涙ながらに話した。
こんな夫婦いいなぁと感じ、その話を彼に伝えた。彼も「羨ましい、いつかそんな人に出会えたらなぁ」と、あなたがつぶやいた言葉に、既に私は含まれていなかったのだろうか。
生憎、彼から別れを告げられた日は、大叔父の四十九日の法要の待ち時間だった。大叔母が涙を流しながら、大叔父に想いを馳せている姿を見て、私は憧れの2人のようにはなれそうにもないと泣き崩れそうだった。2人は本当に運命の人同士だったのだろう。
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そうだ、冒頭の話に戻ろう。こんなに苦しんで、別れたことを悔いているにも関わらず、彼が運命の人ではなかったと言われたら、もうたまったもんじゃない。今はそう思うしか救いがないと言ってもいいほど、心が参ってしまっている。
誰かに捨てられてそのまま弱っていくばかりの人がいれば、そのつらさを踏み越えて立ち上がり強くなる人がいる。私は後者になりたい。だが、しばらくは忘れられないだろう。
未だに彼の連絡先は消せないし、SNSも繋がったままだ。彼のストーリーを見るだけで、心が悲鳴を上げるのに、怖いもの見たさか、見ることをやめられないのは人間の本能なのだろうか。
事実を突きつけられているにも関わらず、彼が私の元に戻ってきてくれないかと願ってしまうのだから、大分重症だ。きっと彼のことを嫌いになれる日なんて、何年経とうがやってこない。
叶わないのにいつまでも思い続ける。これも素敵な愛ではないか、と私は思う。だからこそ、この傷が癒えるまで、彼のことを過去の事だと思えるまで、私は思い続けるし、嫌な思い出にはしない。
でも、私は絶対、あなたが後悔するぐらい、良い女になってやる。そして、あなたがそれに気付いたのなら、次は私が手を離す番。