思い出の朝ご飯と言えば、やはり高校時代のあのおにぎりだろうか。高校3年生の時、私は学校に着いてから朝ご飯を食べていた。
この時期、持病の経過が思わしくなかった私。特に朝の体調は最悪で、「朝、学校に登校する」というのが、一日の中で一番体力と気力を使うタイミングだった。
加えて、私の通う高校は、まあまあアクセスの悪い場所にある。家の最寄り駅から電車で20分弱。着いた学校の最寄り駅から自転車で15分弱。雨や雪が降れば歩きとなるが、徒歩では30分以上かかる。バスも出ていたが、本数が少なく、朝の時間帯は道路も混んでいるので、下手をすれば徒歩よりも時間がかかってしまうのだった。
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朝ご飯を食べてから家を出ると、この通学時間の間に具合が悪くなることが多かった。途中で引き返してしまうこともしばしば。しかし、高校3年生のこの時期、そんなことを繰り返している場合ではない。私の通う学校は進学校だった。「当然、進学するのが当たり前」という空気の中、私も大学進学を目指していた。
しかしこのままでは、進学はおろか、出席日数や単位不足によって、卒業すらも危うい。まずい。とにかく、朝学校にどうにかしてたどり着かなければ。学校に着いてさえしまえば、少し保健室で休んでしまったとしても、その後の授業に復帰できる可能性が高い。
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そこで思いついたのが、「朝ご飯を食べずに家を出ること」。食べなければ胃腸に刺激を与えなくて済むし、もし途中で腹痛や吐き気が起こったとしても、「お腹は空っぽなのだから、出るものも吐くものも何もない」と言い聞かせて、なんとか学校までは行けるのではないか。今思えばかなりの根性論というか、力技ではあったが、この作戦は成功した。私は学校にたどり着けるようになった。
しかし、何も食べずに午前中の授業を乗り切るのは不可能である。高校3年生の大学受験対策。体力は必要であるし、本来の私は朝から食欲があるタイプの人間で、目覚まし時計がなくても空腹で目が覚めるのだから。そこで母は、お昼のお弁当とは別に、朝ご飯用のおにぎりも作って持たせてくれた。
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学校で朝ご飯を食べる時間を確保するために、私は毎日朝早くに家を出た。当然、毎日教室には一番乗りだった。お昼に食べるお弁当は、食べる頃にはすっかり冷めてしまうが、朝ご飯用のおにぎりはまだちゃんと温かくて、その違和感に一人ニヤニヤした。そして、その面白さを共有する人のいない一人きりの教室で食べる朝ご飯は、少し寂しくて、一人メランコリックな気分にもなったりもした。
朝おにぎりに支えられ、私は無事高校を卒業し、大学に進学した。大学生活を謳歌する中で、友人と話題になっているモーニングを食べに行くこともあった。確かに見栄えのするおいしい朝ご飯ではあったが、私の中の思い出の朝ご飯は、やっぱりあのおにぎりなのである。毎朝お弁当に加えておにぎりを作ってくれた母の優しさと、持病を言い訳にしなかったあの頃の自分の頑張りがよみがえる。