母方の祖母、ばばちゃん。私の敬愛する人。私はばばちゃんがこの世で一番料理上手だと思っている。

私が大人になり、ばばちゃんとは住んでいるところが新幹線で行くような距離になってしまった。あの時に食べたあれ、食べたいな。そう思っても、なかなか難しい。ならば再現しようと、ばばちゃんに電話や手紙でレシピを聞いてその通り作っても、そこそこ美味しくできるのだけど、どうにも劣る出来栄えになる。昔の記憶を美化しているのではなく、料理のときの火加減や味加減のセンスがばばちゃんの方が圧倒的に上の技量なので、仕上がりに差が出ているのだ。

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この前、ばばちゃんの家に泊まったときの定番朝ごはんメニューを自分で作ってみた。トースト、オムレツ、牛乳。シンプルな洋風の朝食。これが奥深かった。

ひき肉と玉ねぎ、じゃがいもがたっぷり入った、半熟でとろっとろなバター香るスパニッシュオムレツ。小鍋でしっかり温められ、お気に入りのピカチュウマグカップに注いでもらうホットミルク。トースターで茶色く焼いたカリカリトースト。

そして、最高のジャム。いちご、梅、ブルーベリー、ブラックベリー。そのとき庭で収穫できたものを、ばばちゃん手ずからことこと煮たジャムだ。新鮮なフルーツに同量のグラニュー糖をまぶして1時間置く。たっぷり水分が出るので、そこにレモン汁を少々。それから時間をかけてゆっくり煮る。果物の形が崩れないようにそっとかき混ぜるのがポイントだ。シロップのようにさらさらしていて、掬うと果肉がごろごろと出てくるのが嬉しいジャム。トーストに乗せるとすぐに中まで染み込む。口いっぱいに頬張ると、じゅわっと幸せ。

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食べたい。

自分で作った朝食を食べながら、ちょっと遠い目になった。理想と現実の差に。

上の子に牛乳のおかわりを注いでやり、下の子に離乳食を食べさせる。合間に、自分の口へ少ししなしなになったトーストを詰め込む。オムレツは火を通しすぎたかな。ホットミルクは鍋の洗い物が増えるのが嫌で電子レンジで温めちゃったけど、やっぱりいまいちになった。

子どもたちのいる朝はとても忙しい。食事を楽しむ余裕はなく、倒れないようにカロリーを摂取するという気概しかない。思い返せば、ばばちゃんの食卓にはいつも優しさがあった。

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朝までゆっくり寝て起きると、台所にいるばばちゃんが優しくおはようと言ってくれる。テーブルの上にはまだ空っぽのお皿とお箸が人数分。皆がリビングに集まってきて、ちょうどいいタイミングで焼かれた出来立てのオムレツが大きなお皿に乗って運ばれてくる。トーストは大きな竹ざるに盛られている。こうするとしけりにくくて、ずっとかりかりなのだ。こういった細やかな気遣いが至るところにそっとあった。

いただきます、と皆で手を合わせたあとも、ばばちゃんは台所とテーブルをいったりきたり。ちょっとしたサラダや飲み物などを出してくれる。

「美味しい?」

柔らかな声で歌うように聞かれたら、私はいつでも、美味しい!と笑顔で答えた。
身も心も満たされるご飯。幸せな記憶。そして、いつかその美味しさを再現したい。