ご飯とお味噌汁。ちょっとしたおかず。朝起きると、テーブルに並んでいる朝ごはん。高校までは、それが当たり前のことだと思っていた。
 

朝ごはんは、祖母が作っていることが多かった。美容室の仕事もあるのに、朝一番に起きて朝ごはんの準備。暑い日も寒い日も。体調があまり良くない日も。一生懸命、私たち家族に朝ごはんを用意してくれていた。 

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一人暮らしになって、朝はバタバタすることが増えた。実家みたいな、バランスのよい朝ごはんを食べられる日の方が少ない。当時のありがたみが身に染みる。それと同時に、懐かしさも感じる。

犬屋敷家の朝ごはんは、和食中心。焼き魚やぬか漬けなど、どれも定番のおかずだった。でも、一時期変わったおかずが出たことがあった。

細かく切ったパプリカの入った卵焼き。「ハイカラにしてみたんよ」と、祖母はドヤ顔。どうやら、彩りを良くしたかったらしい。別の日には、そうめんがいっぱい刺さった卵焼きが出てきたことがあった。「変わってて面白いでしょ?」と、ニコニコしている祖母。ハリネズミかと思うほどだったけれど、祖母が作るものなので、やっぱり美味しかった。他にも、祖母は色んなおかずを発明(?)しては、朝ごはんのメニューとして並べていた。

私の知っている祖母は、こういう料理を作るタイプではなかった。どうしてこんなに変わったおかずを作るのかと、すごく気になっていた。

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大学生になってから、ふと思い出して祖母に聞いてみた。

「みちるちゃんの元気が出るようにって思ってさ」
祖母にそう言われて、私はハッとした。

中学と高校では、人間関係に悩んでいた私。特定の人たちから嫌なことを言われたり、周りに気を遣いながら過ごしたり。正直、とても疲れていた。心がダメになりかけていた。ちょうどその頃から朝ごはんに並び始めた、変わったおかずの数々。弱音を吐かなくても、祖母は私の様子に気づいていたのかもしれない。祖母なりに考えて、私を元気づけようとしていたのだった。

私を笑顔にするために、慣れないおかずを作ってくれた。一見「何これ?」と思うものもあった。そういったものを祖母が作り続けていた理由を知って、私は嬉しくて泣いてしまった。

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あの頃は本当につらかった。「いなくなってしまいたい」と思うこともあった。でも、あの朝ごはんのおかずに毎日笑って、美味しく食べて、元気をもらっていた。料理本にも載っていない変わったおかずの内容を毎日考えるのは、きっと大変だったに違いない。祖母には感謝の気持ちでいっぱいだった。

祖母が亡くなってしまった今、あの面白いおかずを見ることも食べることももうできない。残念だけれど、仕方がない。それでも、すべて目に焼きついているので、いつでも思い出すことができる。

料理は苦手な私だけど、ちょっとでも祖母のレベルに近づけたらいいなと日々奮闘中。さすがに、ハイカラなものやハリネズミみたいなのは作れないけれど(笑)それから、祖母みたいに食べた人を幸せな気持ちにさせるものを作れるようになりたい。「何事も挑戦だよ」と言っていた祖母を思い出しながら、毎日少しずつ頑張ってみようと思う。